小噺・中島三郎助の儀

「土方さん」
「何でェ」
「こないだ俺ァ、中島さんとやらにお会いしましたぜ」
「――どの中島さんだ」
「割と細身の、いい年のおっさんで、男くせェ気性のおひとでさァ」
「……(おっさんってェ……)それァもしや、中島三郎助さんじゃあねェのか」
「あァ、そんなお名前でしたかねェ。大鳥さんや相馬さんあたりが挨拶してましたさァ。相馬さんなんか、こう、しゃちほこばってましたぜ」
「あのひとァ、箱館奉行並だったからなァ。しかし、大鳥さんはまだ、おめェらんとこに出入りしてんのか」
「何か、居心地悪くねェみてェですよ。おっかしいですよねェ、新撰組連中の溜まり場だってェのに」
「まァ大鳥さんァ、何て云うか、抜けたおひとだからなァ。――それにしても中島さんだ。何だって、おめェらの溜まり場なんぞに?」
「や、こないだちょっと派手な酒宴張りましてね。その騒ぎが気になって出張ってきたとか云ってましたぜ」
「(相変わらず、口ききがなっちゃいねェな……)どんな騒ぎ方してやがったんだよ……」
「や、鳥さんがいるもんで、赤い制服やら黒い制服やらの連中もいましたからねェ。それでうちの連中もでしょう? そりゃあ、遠くからでもわかりまさァね」
「……酒ァほどほどにしとけよ」
「あんたに云われるなァあれですが、気をつけまさァ。――それァともかく、中島さん、あんたのこと、色気のある男気だとか何とか、あつぅく語ってましたぜ」
「……中島さんがか」
「そうでさァ」
「俺にァよく、勝さんの狗ってェお云いなすったもんだがなァ」
「まァ、“勝贔屓”たァ云ってましたねェ。でも、かなり良く云ってましたぜ。あんた、たらしこんだんですかい?」
「たらし……“勝贔屓”ってなァ、おめェらの前だったからだろう。俺にァ“勝の狗”だったぜ。しかし――そうか、褒めて下すってたか……(照) まァ、総攻撃前に、中島さんとふたりで杯酌み交わしたりァしたがなァ」
「水杯ですかい」
「似たようなもんだな。俺ァ降伏なんぞする気ァさらさらなかったし、中島さんも、徳川に殉じるんだってェ云いなすってたからなァ」
「あァ、派手に散ったぜってェ笑ってましたねェ」
「そうだってなァ。釜さんの制止振り切ってってのが、いかにも中島さんらしいぜ」
「まァ、豪気なおひとでさァね」
「あァ、そうだなァ」
「しっかしあのおひとァ、何て云うか、うめぇですねェ。野村さんに酒注いで、潰してんですけど、そのやり口が」
「どうした」
「中島さん、自分で一杯飲む間に、野村さんにゃあ二杯注ぎなさるんで。しまいにゃ、野村さん、討ち死に屍体みてェに転がってましたぜ」
「中島さんらしいが――野村……」
「“まァ聞け!”ってェ説教大会で、その合間に“何だ、呑まねぇな、若いくせに”ってェ杯空けさせますからねェ。野村さんも、また大人しく拝聴してましたし」
「中島さん……」
「まァ、その後で、自分も酔いつぶれてたみてェですけどねェ。翌朝見たら、白っぽい顔して“大声出すな”ってェ云ってましたから」
「……どんな呑み方してたんだ、おめェら……」
「いやァ、何か箍ァ外れちまったみてェで。何とか無事だったのァ、先に帰っちまった鳥さんと、崎さんと源さんくらいでしたからねェ」
「(溜息)今さら何だが、酒ァほどほどにしとけよ」
「肝に銘じておきまさァ(神妙)」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。今回は中島三郎助さんで。
つーか、中島さんと鳥さんと、伝習隊と額兵隊と新撰組(京都+箱館)って、どんな飲み会だ……


一応この方、鬼と同僚、と云えなくもないのかな? 箱館市中取締と箱館奉行並って、組織図の上では同格だからなァ。もっとも、中島さんに較べれば、鬼なんか若造もいいとこですがね。
桂さんを寄宿させたり、勝さんとの仲を吉田松陰に心配されたりと、いろいろネタの多い方です。まァでも中島さん、ホントにクセの強い人だからなァ。
箱館戦争関連の本で見た中に、中島さんの最後の抵抗時、門のきわで敵に一発砲弾ぶち込んでから斬りこみやって討ち死にしたって云う記事を見つけましたが、いかにもな最後で(笑)。


この方喘息持ちだそうですが、自分も重篤な喘息持ちの沖田番(こないだも息止まりかけてましたよ――でも格闘やってましたし、運動しないとキレやすくなりますがね)曰く、「この時代に重篤な喘息持ちは生き残れないから、この人のは軽微なはずだ」とか何とか。まァ、いい薬とかないもんなァ。
ところで、この方、何回か「病のため」って役職辞任してるんですけど、ホントに病だったのかなァ――あの性格だし(鉄火。だって、「にしんと云はば」を叩きつけて脱走する人ですぜ?)、病を口実にしてばっくれちゃったカンジなんじゃあ……
まァ、大好きですよ、勝さんの次にだけどね!


ところで、ググってネタ探してたら、この方の履歴の中に「天然理心流目録」って項目が……! えェ、(一応)同門なの? 記載間違いじゃないよね?
……ちょっと気になりました。情報集めなきゃ! でも、結構前の話っぽいので、周斎先生か、その前の代のころになるのかな? だ、誰に訊けばわかるんだ……


さて、次は鉄ちゃんの話の続きか……