北辺の星辰 19

 九月十二日、歳三は、榎本らに伴われて青葉山城に登城し、藩執政の大條孫三郎や遠藤文七郎、藩主・伊達慶邦らに面会した。
 歳三としては、奥州同盟の行末を見定める絶好の機会と思っていたのだが――仙台藩は、どうやら恭順の方向で藩論がまとまりつつあるように見受けられた。
「どうぞ、お考え直し下さい。幕府海軍と、陸軍の力を合わせれば、薩長の輩など怖るるに足らず。まして、そこに諸藩の兵が加われば、彼奴等なぞひとひねりでございましょう。今こそ奥州諸藩力をあわせ、正しきご政道を……」
 榎本は、大條らに訴えていたが、かれらは曖昧な笑みを浮かべて、榎本の肩を叩いただけだった。
 その、どこか憐れむような笑みに、歳三は、仙台藩が既に戦いを諦めていることを知った。
 かつてであったなら吐き出しただろう、勝手にしろ、という言葉を、歳三は口にすることはできなかった。
 ここで諦めては、会津に残してきた、新撰組をはじめとする幕府陸軍を、なす術もなく壊滅させることになってしまう。
 いや、榎本から知らされた、江戸表や前将軍の処遇の話を信じるならば、ここで陸軍を壊滅させることこそ肝要なのだろうが――今、会津で幕軍を敗北させることは、上策だとは思えなかった。
 ともかくも、どうにかして仙台藩を翻意させ、あるいは――どうにかして戦いの渦中に引きずり込まねばならぬ。そうでなくては、奥州同盟の存続すらが危ぶまれることになる、それだけは避けなければ。
 幸い、と云うべきか、仙台藩は、自らの藩意を他の同盟国に知らしめてはいないようだ。
 榎本は、それをいいことに、各藩の切り崩しを図っているようだった。
 歳三が小耳に挟んだところでは、かれは同盟諸藩の談所へ日参し、何とか薩長との対決へと、流れを持っていこうとしているとのことだった。
 ――まァ、ここは榎本さんに任せるしかねェだろうなァ。
 と、思ったのは、ひとえに歳三自身の身分ゆえだった。
 何しろ、幕臣にお取立になったとは云え、もとは武州・多摩の百姓の子だ。それに引きかえ、同盟諸藩の列席者は、それぞれの藩でも重鎮と云ってよい人物ばかり。かれらは、歳三などが口を出そうものなら、気分を害するに違いないからだ。
 会津の戦局は、刻一刻と変化しているだろう。幕軍は、新撰組は、その中でどのように戦っているものか――それを思えば、居ても立ってもいられぬのだが、さりとて、このまま単騎会津に取って返すこともできぬ。
 歳三は、じりじりとしながら、榎本からの知らせを待っていた。
 と、幾日かの後、使いのものが歳三のもとを訪れ、会議の場へ来てほしいと云う榎本の伝言を云ってきた。
 ――何だって、俺なんぞを?
 とは思わぬでもなかったが、ともかくも、呼ばれたからには出向かねばならぬ。
 談所へ赴き、会議の間へ通される。
 唐紙を開けると、各藩の代表と思しき人々が、車座になって寄り合っているのが見えた。
「失礼致します。――土方歳三、お呼びと伺い、まかり越しましてございます」
 そう声をかけ膝を進めると、一同のまなざしが一斉にこちらを向いて、歳三はすくみ上がるような心地をおぼえた。
 幾人かのまなざしが訝しげなものであるのは、おそらくは歳三の身なり故だっただろう。黒の上着と揃いの胴衣、白の肌着に下は黒のだんぶくろ、洋装の軍服は、このような場所にはそぐわない。
 羽織袴なり裃なり、この場に合わせたなりをしてくるべきだったと思ったが、もう遅い。
「やぁやぁ、お待ちしておりました」
 榎本は、いつものように明るい笑顔を浮かべているが――この男、歳三のどんなことを、ここに居並ぶ人々に申し述べたものか。
「実は、奥羽同盟によるこの度の会津表への出兵にあたり、貴方に同盟軍の総督を依頼したいということになったのだ。貴方、もちろんお引き受けになりましょうな?」
 ――そういうことになろうとは。
 歳三は、突然のことに、暫、沈黙し――ともかくも頷いてみせた。
「――大任ではございますが、もとより死をもって尽くすの覚悟でございますれば、ご依頼は敢えて辞しは致しますまい」
 確かに驚きはしたものの――忌避する心があるかと云えば、そういうわけでは決してなかった。むしろ、喜んでいたとすら云ってよかった。
 会津よりこの方、歳三はずっと軍を統率することを求められずにきた。だからこそ、ここへ来て、榎本のお蔭で己が日の目を見ることになったことに、素直に喜びを感じていたのだ。
 そして何よりも、総督に就けるとなれば、自分の意のままに軍を動かすことができる。そうなれば、後手後手に回りがちな大鳥の作戦など気に留めず、兵の力を最大限に出させることができるだろう。
 だが、そのためには、越えておかねばならぬ壁がある。
「……ですが、このままご依頼をお受けするためにも、お訊ね申しておかねばならぬことがございます」
「さて、いかなることでござろうか」
 歳三の近くにあった壮年の男が、首をかしげながら問うてきた。
「いやしくも、三軍を指揮するにあたっては、軍法は厳にしなければならぬと存じおります。されば、もし私めが総督となり、軍中において背命のものあらば、御大藩の宿老衆と云えども、私めが三尺の刀にかけて斬り捨てることとなりましょう。さもなくば、軍紀など保ては致しますまい」
 この言葉に、居並ぶ人びとが、はっと息を呑むのがわかった。
「されば、生殺与奪の権を、総督の任とともにお与え戴けますのならば、謹んでお受けいたしましょう。その段や、いかに」
 歳三は、言葉を切り、ぐるりと一堂を睨み据えた。
 ――さて、どう出る?
 歳三にとっては、これは試金石でもあったのだ。
 庄内から白石、仙台と経てくる間、諸藩が恭順へ傾きつつあることは、歳三も肌で感じてきた。
 それでも、奥州同盟を機能させるための合議を開くのならば、あるいはまだ、同盟自体は崩れてはおらぬのかも知れぬ。
 それを見据えるためにも、あるいは実際の行軍の最中に揉めごとを起こさぬためにも、この点だけははっきりと云っておきたかったのだ。
 もしも、同盟諸藩が、完全に恭順に傾ききっているのであれば、歳三のこの要求に対して、かれらは不快感を示すだろう。そうでないならば、この要求は受け入れられるだろう。そして、会津薩長の手から救う手立てもできるはずだ。
 歳三は待った。諸藩の士が、かれにその答えを告げるのを。
 かれらは、目を見交わし、さわさわと囁きあった。
 そののち、ひとりがおもむろに、
「……云うに及ばず、生殺与奪の権は、総督に付されると決まったもの。されば、総督の任をご依頼いたすからには、生殺与奪の権もお与え致しましょうぞ」
 その言葉に、居並ぶ諸士も頷いた。
「左様、その権なくば、総督の任を果たすは難しいこと」
「もとより、そのつもりでござった」
「左様左様」
 ――よし。
 口々に投げかけられる言葉に、歳三は満足して頭を垂れようとした。
 が。
「あいや、待たれよ」
 そう云って、片手で制してきたのは、歳三とあまり歳のかわらぬひとりの男。
 その声に、隣りに坐る男が、訝しげに眉を寄せた。
「何を待てと云われるか、安部井殿」
生殺与奪の権を土方殿にと云われるが、この安部井、左京太夫様に伺いを立てた上でなくば、その段了承致しかねる」
「これは異なことを。貴殿とて、藩を負うてのご列席のはず、云わば、貴殿のご意思こそが二本松のご意思でござろう。それを、何ゆえ左京太夫殿に伺いを立てねばならぬと云われるのか」
「貴殿らは、生殺与奪の権を与えると云うことで宜しかろう。ただ、私はそれに肯いかねると申したまで」
「……私も、安部井殿と同意見でござる」
 と、車座のすこし向こう側に坐った男が頷いた。
「片山殿! 米沢まで、そのようなご意見とは」
 と云うところをみると、その男は米沢藩のものなのか。
 米沢藩は、既に恭順に傾いていた――では、二本松も同じだと云うのか、会津とともに戦ったばかりでありながら。
「そもそもは安部井殿でござる。この場へ二本松を負うて来られたからには、今さら左京太夫殿へのお伺いなどと――それならば、何ゆえこの場においでになると云うのだ」
「左様! お伺いを立てるなどと申されず、この場でお決めになられるが筋と云うものではないか」
 他藩のものたちが、安部井と、片山と云う名の男に詰め寄って、会議の場は騒然となった。
 と、
「お静まりあれい!」
 びんと張った声を上げたのは、榎本だった。
「そのように騒がしくされては、話をすることも適いますまい。まずは私が、安部井殿のご意見をお聞き致しましょう」
 よくとおるその声音に、諸藩の者たちはざわめきながらも、榎本にその場を譲った。
「さて、安部井殿、この場におられるからには、貴方が二本松の藩意を表しておられると、そのように考えて宜しゅうございますな?」
「如何にも」
「されば、何ゆえ生殺与奪の権のみは、ここで与うるや否やのご判断をなされぬと?」
「藩意、と申しましても、それにも軽重がござる」
 安部井は云って、ぐっと榎本を睨み据えたようだった。
「奥州同盟を如何に回してゆくべきか、などということであれば、藩意はもはや決しており、判断するまでもないこと。さりながら、生殺与奪の権の付与などと云う重大事は、私の一存では判断致しかね申す。我が忠誠は主・左京太夫のもの、されば生殺与奪の権もまた、主に捧げられるが筋と申すもの。それを、この場で判断せよとは、あまりなことではござらぬか」
 この言葉に、居並ぶ諸士が、またざわめきはじめるのがわかった。
 ――これは、駄目だ。
 と歳三が思ったのは、かれらのざわめきが、徐々に安部井らの方へ傾いた意見を紛れこませてきたからだ。
 ――所詮、同盟などかたちばかりのものだったか。
 だが、それも仕方のないことなのかも知れなかった。
 真の盟主と仰ぐべき徳川家が、薩長土肥の意を入れて駿府へ下った以上、いかに榎本が煽り立てようとも、同盟の瓦解など、目に見えたことだ。米沢や仙台は藩意を恭順と定め、現に今戦っているはずの二本松ですらこの調子では、会津や庄内がどれほど抗戦を申し立てようと、この同盟は成るまい。
 歳三は、無言で立ち上がった。
「どこへ行かれる、土方君」
 榎本が、慌てた様子で訊ねてくるのへ、歳三はうすく笑んでみせた。
「私がここにいても、お話がまとまるわけではございますまい。されば、お話がまとまり、かつ私がご要りようと決まられましたら、またお声がけ戴きたい。私は、それまでお待ち申しておりましょう」
 もっとも、そのようなことなどあるまいが。
 榎本の手が、引き止めようとするかのように、上げられる。
 それを目の端で捉えつつ、
「御免」
 一礼して、歳三は身を翻した。



 宿に戻ると、主が出迎え、来客があると告げてきた。
 ――誰だろう。
 まだ、会津から幕軍が引いてきたと云う話は聞かぬ。
 仙台で、歳三を訪ねてきそうなものと云えば、こちらへ砲術の指南に赴いている、伝習第一大隊のものたちだが、隊長を代行している内田とは、先日会ったばかりで、今さら誰が来るとも思われない。
 首を傾げながら部屋へ行くと、懐かしい顔が揃ってかれを出迎えた。
「副長!」
「土方先生、お久しぶりです」
 流山で、あるいは江戸で、近藤の助命のために隊を離れたふたり――野村利三郎と相馬主計が、揃って頭を下げてきたのだ。


† † † † †


鬼の北海行、続き。
安部井さんのねっちりトーク……長いよ……


遠藤さんのコメントの「土方に至りては斗屑の小人……」ってのは、まァ、思ってたんだろうけど、口にはしてなかったんだろうなァ、とは思います。
つーか鬼、どうもああいう文官系には受けが悪いなァ。望月さんにも「小人」だし、何だかうおぉぉぉ。
つーか、釜さん、この辺、タロさんとかと一緒に鬼を連れまわしてますね。鬼、あんま営業上手じゃない(小売販売的営業は除く)ので、あんまり意味なかったんじゃないかしら、と思わずにはいられません。偉いさん相手なら、絶対タロさんの方が適任だよ!


新選組証言録』(PHP新書)が、実はイマイチ使いづらいことが判明……証言が断片なので(それでも、『新選組日誌』よりはマシなのですが)、前後の文脈とかがわかり辛い部分が……まァ、安部井磐根の証言は一応使えなくもなかったけど。うぅうん、史料の原本求めて駆けずりまわる人たちの気分が、ちょぉっとだけわかったわ……


ところで、幕末サーチの登録記事を修正していて思ったのですが、蝦夷政権やってるところでも、中島(三郎助)さんの出てるサイトさんって少なくないですか?
あの人、派手に散ったんだし、最期の地に碑まで立ってるんだから、もうちょっと何かあってもよかろうに……
とか云ってたんですけど、どうもやっぱり中島さんてとっつきにくい人だったらしいです……そうかなァ、何か面白くってカッコいい人のイメージしかなかったんだけど……まァ、多分に偏屈なところはあるにせよね(笑)。
とりあえず、中島さん好きな人とかいないかなー。同士求む、もちろん土勝も!


あ、そうそう、安彦さんの『王道の狗』(白泉社版)GET致しました。
か、勝さんが……(←が、購入の動機なので――終わってますか)とか云いつつ、加納のかっこよさにきゅんっとしてみる。
いいねェ、王道の狗――と云いつつ、勝さんの狗なんだよな、ある意味で。
鬼も、ああいう風に動けたらよかったんだろうけども、ねェ……


この項、終了。
次は鉄ちゃんの話――そろそろ先が見えてきたな……

小噺・銀魂!

「……土方さん、何読んでやがるんで……ってェ、あァ、例のアレですかい」
「ん? あァ、昨日、新刊が出てたからなァ、やっと終わったぜ、真選組動乱編」
「伊東参謀が出てたんでしたっけ。ってェ、あァ、俺らの知ってる伊東さんとァ、かなりいろいろ違ったおひとですねェ」
「名前からして違うだろ。こっちァ“鴨太郎”だ、“鴨太郎”!」
「何か、芹鴨とかけ合わせたみてェな名前ですねェ(笑)」
「まァ、芹鴨だろうが伊東参謀だろうが、どっちでも構やしねェが、どっちにしても、こっちの鴨の方が、何倍もマシに見えるぜ」
「まァ、伊東(甲子太郎)先生ァ、学は深ェが知恵ァ浅ェおひとでしたからねェ」
「それを云うんなら、こっち(銀魂)の高杉の方が、まっとうってェ云い方ァおかしいが、勤皇志士っぽく見えやがるがな」
「俺ァ、こんな高杉ァ、ヤバすぎて御免ですがね。――それにしても、あんたん頭ん中の奴ァ、どんなヘタレなんですよ……」
「あ? どうも高杉の野郎ァ、飲んだくれてる覚えしかなくってな」
「……まァ、それァ俺も同じですがね。だけど、高杉も、長州ん中じゃあ重鎮だったみてェですし、よもや飲んだくれてばっかってェわけじゃあなかったんでしょうけどねェ」
「まァ、こんな高杉(銀魂)にゃあ、徳川の世は倒せなかっただろうさ。……しかし、桂さん……(涙)」
「あァ、ヅラの方ですかい? ――こんな桂さんだったら、俺らァ簡単に捕まえられそうですがねェ」
「こんなのァ、こんなのァ桂さんじゃあねェ……!(泣)」
「あんた、どんだけ桂さんに夢見てんですかい。桂(小五郎)さんだって、乞食に化けて、俺らの目ェかいくぐったりとかしてたじゃあねェですか」
「それとあれ(=女装etc.)とァ、話が違わァ! 俺ァ、あん人が練兵館の塾頭だった時から、ずっと大した人だと思ってたのによォ……」
「や、あの(=銀魂)桂さんは、あんたの云ってる人と違いますから。――大体、それを云ったら、あの“副長”なんざ、まったくの別人でしょうが」
「まァ、俺ァマヨラーじゃあねェからな」
「や、あんたァ、あんな格好よかァねェですからねェ。どっちかってェと、トッシー……?」
「!!! 俺ァ、あんなヘタレオタクじゃねェ!」
「まァ、違いますよねェ、ああいう“オタク”じゃあありませんからねェ」
「おめェは、俺のことを何だと思ってやがるんだ……」
「え? 土方さんでしょう?(にこ)」
「そういうところが、おめェも、あの総悟ってのも、よく似てやがるぜ……」
「え、あァ、見た目可愛いところとかですかい?」
「そういうもの云いしやがるところがだ!! ……俺より三寸ばかりも高ェ、でけェガタイのくせしやがって……」
「(にこ)まァあんたァ、銀さんとトッシー足して二で割ったらちょうどなんでしょうさァ」
土方十四郎は!」
「あれァ、空知ってェお人の、“ドリー夢”ってやつでさァ。派手に散った人ってのァ、いつだって綺麗な夢語りにされちまうもんですからねェ」
「……(反論できない)」
「まァいいじゃねェですかい、愛されてるっていうことで!(爽笑)」
「(畜生、まとめに入りやがって……)――そう云やぁ、聞いた話だが、何か、俺とおみつさんが実はいい仲だったってェことにされてるらしいぞ、世間では」
「は? “おみつさん”ってェのァ、俺の姉上のことですかい?」
「あァ。山南さんに聞いたんだがな。何でも、俺がおみつさんのことを好いていて、人妻にァ手ェ出せないってんで、おめェと……ってことらしいんだが」
「ぶは!! 俺ァ、姉上とァ似てねェってのにねェ! 第一、あんたと俺じゃあ、“電信柱に蝉”ですぜ!」
「そこまでガタイァ違わねェだろ! それ以前に、俺ァおみつさんにァ、本当に数えるほどしか会ってねェんだぜ。しかも、しっかり言葉をかわした覚えのあるのなんざ、おめェが植甚に世話んなるってェあん時くらいだしな」
「まァ、弟の俺からして、ほとんど会ってませんでしたからねェ。むしろ、あんたんとこのおのぶさんの方が、俺の姉貴みてェな気分でしたぜ」
「まァ、小遣い貰ってたりしてやがったからなァ。――しっかし山南さんも、相変わらず不思議なことを知ってるよなァ」
「あん人ァ“もの識り”ですからねェ。しっかし、あの漫画に山南さんが出てなくて、本当に良かったですぜ。あの空知ってェお人にかかっちゃあ、山南さんもどんな奴にされちまうんだか、想像もつきませんや」
「それを云うなら山崎だ。あれ(=退)ァ、崎(=烝)が見たら何て云うんだかなァ」
「崎さんなら、笑い飛ばしそうな気もしますがねェ。はっきり云って崎さん、あんたよりしっかりしてますからねェ」
「やかましいわ!」
「でもまァ、あれですねェ、この漫画、割合に俺たちに好意的ですよねェ。あんたも、本当に格好よく描いてありますし」
「あァ、まァな。どっちかと云やァ、あれの近藤さんの方が、俺としちゃあ好きだなァ」
「何抜かしやがるんでさァ! かっちゃん先生だって、勲さんに負けずにいい男ですぜ!」
「……ストーカーなゴリラと張り合うのかよ? その時点でヤバかァねェか、かっちゃんも……(溜息)」
「! ちょっとかっちゃん先生に好かれてるからって……あんたァ、そういうところァ、あの十四郎って野郎とそっくりでさァ……!(泣)」
「何でそこで、おめェが泣くんだよ?」
「あんたがいなけりゃあ、俺がかっちゃん先生の一番だったはずなのに……!(ちゃき)」
「うわ、待て総司! 刀を抜くな、私闘は切腹だーっ!!」
「大丈夫でさァ、ここであんたを殺っちまやァ、知ってるのァ俺だけですからねェ(くくく)」
「冗談じゃねェ、俺ァ逃げるぜ!(脱兎)」
「あれ、行っちまった。――まったく、ああいうとこァ、十四郎さんと云うよりァ、銀さんに近ェんだから……」


† † † † †


阿呆話at地獄の六丁目。ぎんたま〜。
銀魂わかんない方は、ごめんなさい。


動乱編終わったので、早速きましたぜ。
もう面倒なので、単語の間に/入れたりとか、そう云う検索避け小細工は致しません。
なので、“銀魂”で引いてうっかり来ちゃった方はゴメンナサイ。でも、うちは“新撰組”なんで、“真選組”じゃあないんで。今回はネタなんで、すみませんが宜しくお願いしますです。
苗字だけだと混乱するので、()内にいろいろいれましたが……結構これはこれで読み辛いな……


とりあえず、銀魂自体は、普通に面白く読んでます。
今回、何故か腐女子萌えもしないので(まァ、銀さんがアレだしな……)、本当にフツーに。
実は、真選組が出てない話(ホスト編とか紅桜編とか幾松さんの話とか、20巻だと第169訓とか)が結構好き。真選組関係だと、こないだの動乱編と、おみつさん、じゃなくてミツバさんの話、あと煉獄関の話と第75訓!


個人的には。
銀魂なら、近土でも土近でもまァいいや、と云うカンジです。十四郎くんは鬼じゃないからな(笑)。勲さんもかっちゃんじゃないし。
あと、勝さんが(今のところ)出てなくて、本当に良かった……! まァ、『士道』(高橋ツトム)とか『仁-JIN-』(村上もとか)とかでもよく出てる勝さんのこと、今後出ないとは云い切れない(は! 今上げたの、全部集英社のコミックじゃねェか……)のですが。
あァ、松平のとっつぁんの話をしませんでしたが、容保さんの方がいい、のかな? しかし、話をしやすそうな上役は、とっつぁんの方ですが。
似蔵よりは以蔵、アゴ先生は半平太の方で。杉は……同人系ヘタレ杉は大好きですが、原作となら晋作が好きだなァ。あ、辰馬と龍馬は――龍馬わかんないので、敢えて辰馬で。桂さんは孝允さんの方ォ〜!
万斉と特盛は、元の方を(よく)知らないので、銀魂の方で。特盛さん、好きです。
総悟と総司はあんま変わらん――バズーカない分だけ総司、か? 見た目はどっちでも……やっぱ総司で! (総悟と並んだら、鬼がもてなくなるじゃねェか!) 山崎も、烝の方で! (退だと、使い方に苦労しそうだ……)
そんなカンジ?


さて、次は鬼の北海行〜。
例の「漆のような髪を長う振り乱してある」あたりの話(笑)、のはず……

資料のこと・三訂。

またまた資料が増えたので、この辺でまた一覧など。こ、今度こそ、これで買い収め、にしたいなぁ……
タイトル、著者名、出版社名、ISBN(面倒なので、殆どは10桁の方)の順で。


新選組始末記」 (子母澤寛 中公文庫 し 15-10) 4122027586
新選組遺聞」 (子母澤寛 中公文庫 し 15-11) 4122027829
新選組物語」 (子母澤寛 中公文庫 し 15-12) 4122027950
新選組事典」 (鈴木亨 編 中公文庫 す 17-1) 4122035414
新選組100話」 (鈴木亨 編 中公文庫 す 17-5) 4122027632
新選組全史」幕末・京都編 (中村彰彦 角川文庫 な 26-11) 4041906113
新選組全史」戊辰・箱館編 (中村彰彦 角川文庫 な 26-12) 4041906121
新選組二千二百四十五日」 (伊東成郎 新潮文庫 い 87-1) 9784101318714
「龍馬と志士たち」 幕末・維新の群像 3 (小学館文庫) 4094010084
「悲劇の戊辰戦争」 幕末・維新の群像 4 (小学館文庫) 4094010092
「一外交官の見た明治維新」 (アーネスト・サトウ 岩波文庫 青425-1 -2) 4003342518 -2526
新選組」 (松浦玲 岩波新書 新赤版855) 4004308550
新選組沖田総司」 (木村幸比古 PHP新書 231) 4569625738
新選組日記」 (木村幸比古 PHP新書 257) 4569630081
「俳遊の人・土方歳三」 (管宗次 PHP新書 280) 4569633463
新選組証言録」 (山村竜也 PHP新書 308) 4569637183
新選組実録」 (相川司/菊地明 ちくま新書078) 4480056785
新選組紀行」 (中村彰彦 文春新書) 4166603434
幕臣たちと技術立国」 (佐々木譲 集英社新書 0342D) 4087203425
新選組 知れば知るほど」 (松浦玲 実業之日本社) 4408102830
新選組大事典 コンパクト版」 (新人物往来社) 4404028040
新選組全史」 上・中・下 (菊地明 新人物往来社) 4404031661 -176X -1688
新選組史料集 コンパクト版」 (新人物往来社) 440402200X
「続新選組史料集」 (新人物往来社) 4404032900
新選組日誌」 上・下 (菊地明/伊東成郎/山村竜也 編 新人物往来社) 4404031041 -105X
新選組研究最前線」 上・下 (新人物往来社) 4404025920 -5939
土方歳三沖田総司全書簡集」 (菊地明 編 新人物往来社) 4404023065
箱館戦争銘々伝」 上・下 (好川之範/近江幸雄 編 新人物往来社) 9784404034717 -4724
「南柯紀行・北国戦争概略衝鋒隊之記」 (大鳥圭介/今井信郎 新人物往来社) 4404026277
「文藝別冊 新選組人物史」 (河出書房新社) 4309976611
「文藝別冊 土方歳三」 (河出書房新社) 4309
新選組決定録」(伊東成郎 河出書房新社) 4309224008
新選組 -将軍警護の最後の武士団-」 (ロミュラス・ヒルズボロウ バベルプレス) 9784894490598
箱館戦争」 (加藤貞仁 無明舎出版) 4895443639
「図説 幕末 戊辰 西南戦争」 (歴史群像シリーズ 学研) 4056044309


あと、勝さん関連で、


「氷川清話」 (講談社学術文庫1463) 406159463X
「海舟語録」 (講談社学術文庫1677) 4061596772
勝海舟」 (松浦玲 中公新書158) 4121001583
「現代視点 勝海舟」 戦国・幕末の群像 (旺文社) 4010705558
勝海舟のすべて」 (小西四郎 編 新人物往来社) 4404012918
「幕末三傑・乱世の行動学」 (尾崎秀樹 時事通信社) 4788794055
「海舟余波」 (江藤淳 文藝春秋)


その他幕臣・長州志士関連で、


大久保一翁」 (松岡英夫 中公新書 536)
高杉晋作」 (奈良本辰也 中公新書 60) 4121000609
高杉晋作奇兵隊」 (田中彰 岩波新書 黄版317)
高杉晋作」 (一坂太郎 文春文庫 236) 4166602365
高杉晋作奇兵隊」 幕末維新の個性 7 (青山忠正 吉川弘文館) 9784642062879
木戸孝允」 幕末維新の個性 8 (松尾正人 吉川弘文館) 9784642062886


それから、ISBNはないのですが、デアゴスティーニ「日本の100人」の龍馬、勝さん、高杉、桂さん、かっちゃん、鬼、釜さん。総司はこれからだねー。
同じく講談社「ビジュアル日本の合戦」、“松平容保会津戦争”、“久坂玄瑞禁門の変”、“高杉晋作と長州征伐”、“徳川慶喜と鳥羽・伏見の戦い”、“勝海舟江戸開城彰義隊の戦い”、“榎本武揚箱館戦争”。
歴史読本」S54年9月号“最後の戊辰戦争五稜郭の戦い”、'00年12月号“新選組全史”、'04年3月号“近藤・土方・沖田の新選組”、あとS49年新春2月号“立体構成 勝海舟”。


おいおい、えらい増えてるなー(汗)。
しかしまァ、今後増やすとしたら、アーネスト・サトウ日記抄(朝日文庫から刊行)、勝さん関連(来年の大河絡みで何か出たら!)、桂さん関連と、箱館戦争史料集(みつかればね!)くらいになるかと思われます――だって、新撰組関連は、新しいネタも(本の中には)見当たらないし、話書くのには使えないんだもん。
まァ箱館戦争終結までは、一応、出所は限りなくアヤしいけど、(それぞれの主観的に)正確なネタが手に入るので(出所はあまりにもアヤしいので内緒!)、新撰組箱館戦争関連に関しては、これ以上の資料はいいかなァと。


あと、これは非常に不満を感じるところなのですが、こと新撰組とか鬼とかに関しては、あまりにも“神話”的言説がまかり通り過ぎてます。
いっつも思うんですけども、何で鬼がかっちゃんと最後まで盟友だったとか、そういうのが事実として通っちゃってるんですかね。山南さん切った非情の男・土方が、組織を投げ打とうとしたかっちゃんをそのまま慕うなんて、そんなことを一片の疑問もなく信じられるってのが、どうもイマイチわかんない。
しかも、一般の新撰組好きさんだけならまだしも、研究者もまったく疑いを差し挟んでないって――どうなのよそれ。
これはアレだ、「歴史読本」'04年3月号掲載の中村武生氏“新選組研究の回顧と展望”に書かれてたことに、私も同意しますね。
新撰組の話は多分、全部を洗いなおしてみるべきなんだと思う――歴史的事実の積み重ね(懐古的証言の羅列でなく)を見てみれば、これまでの新撰組像と違うものがきっと出てくると思うんだけど。


……って云うと、凄い反発する人多いんだろうなァ。
でも、あんな“神話”がまかり通ってるから、新撰組はいつまでも、“ちゃんとした歴史”の中に入れてもらえないんだとは思うんだけどもね。
まァ、入れてもらえなくても全然構わないんだけど、個人的には、あの鬼の祀り上げられ方が厭で仕方ないので! うわぁ〜、もう勘弁してくれ〜!! って、鬼だって云うさ。本当に勘弁。


† † † † †


さてさて、明日は銀/魂20巻発売(やっと!)ですね!
次こそ銀/魂語り! ふふふふふ……

めぐり逢いて 26

 湯を使い、髭をあたり、髪を整え、新しい衣――主の子息のものだと聞いた――に袖を通す。久方ぶりに、こざっぱりとした装いになった。
 食事を摂って、ようやく人心地ついたところで、鉄之助は主に呼ばれた。
 茶の間の隣りの仏間に通されると、主と、その妻女が待ち構えていた。
 庭に面した障子も、前後の唐紙も、ぴたりと閉ざされている。鉄之助が何もので、何ゆえにここを訪れたかがわかったので、そとに漏れ聞こえることのないよう、細心の注意を払っているのだと知れた。
 鉄之助は、まずは主に頭を垂れ、次いで仏壇に向き直って、瞑目した。
 副長の姉の嫁ぎ先である以上、ここにあの人が祀られるわけはないが、それでも、何かにあの人の冥福を祈らずにはいられなかったからだ。
 主夫妻は、その間、無言でかれを待っていてくれた。
 鉄之助が祈りを終え、ようやくそちらへ向き直ると、
「――それで」
 と切り出したのは、おそらくは、かれも云うべき言葉を探しあぐねていたのだろう。
「市村君、と云ったか――歳三の小姓だったと云っていたね。君がここへ来たということは、歳三は……」
「俺が、箱館を後にした時には、ご健在でした」
 鉄之助は、一言一言噛みしめるように云った。
「亡くなったと聞き及んだのは、横濱までの船中でのこと――箱館市中にて戦死されたと、それだけしか……」
 それを聞いた主の妻女が、喉をつまらせ、袂で目尻をぬぐった。
 妻女の顔がひどく副長と似通っていることに、鉄之助は今さらながらに気がついた。
 その顔を目にするだけでも感極まって、鉄之助もまた、落涙していた。
 だが、ただ泣いているわけにもいかない。鉄之助は、知る限りの副長の様子を伝えなくてはならない。そのために、自分はここへよこされたのだから。
「――俺が知る限りの、副長のことをお話し致します」
 そう云いおいて、鉄之助はゆっくりと語りだした。
 流山から後、副長がどのように転戦していったか、会津の戦いのこと、仙台でのこと、蝦夷渡航のこと、五稜郭入城から松前攻略までのこと――
「……副長は、それは隊士たちに慕われておられ――」
 伝えなくてはならぬ、副長が、どれほど幕軍の兵たちに愛されていたのかを。
「――俺が箱館を出ることになったのは、四月のはじめのことでした。五稜郭の副長のお部屋にて、特命があるとおっしゃって……俺に、こちらを訪ねるよう命ぜられたのです。俺が、お傍にて果てたいと申し上げると、それではここで斬られるかと仰せになり……」
 ――ならば、ここで俺に斬られるか。
 あの時突きつけられた、和泉守兼定の鋭い切先を、まだまざまざと思い出すことができる。そして、同じほどに鋭い副長のまなざしも。
 ――俺の命を果たせぬのなら、ここで死ね。そうすれば、俺より先に死ぬことができるぞ。
 あの言葉に、自分は“それでも構わない”と云い張ったのだ。副長のために死にたいのだと、あの人を守って果てるのが望みだと。
 あれから三月が経ったと云うのに、鉄之助の中で、それらの光景は風化することもなく鮮明なままであった。もはやここから歩みだせぬのではないかと思えるほどに。
 主夫妻は、鉄之助の言葉を、涙ぐみながら聞いていた。
 やがて、鉄之助が語りを終えると、主が静かに口を開いた。
「……よくぞ伝えてくれた、市村君。――ところで、君は、歳三から託された書付を目にしたのかね」
「……いいえ」
 あの、細い紙片に書き付けられた短い言葉を、鉄之助は、恐ろしくて盗み見ることすらできなかったのだ。箱館からの船中では、その言葉を見れば、副長の死を呼び寄せるような気がして、訃報を耳にしてからは、見てしまったなら、自分が二度と歩き出せなくなるような気がして。
「御覧」
 主はそう云って、かれにその紙片を示した。
 そこには、
 ――使の者の身上頼上候  義豊
 と、副長のあの、細い流れるような手で、そればかりが書かれてあった。
 酷いひとだ、と、鉄之助は呟いた。
 あのひとは、鉄之助に、追腹を切ることさえ許さないのだ。箱館では、あのひとの楯となって散ることを許さず、今また殉死することをも許さないのだ。
 ――勝手なことばかり……!
 鉄之助の望みも聞かずに、思い込みでかれの処遇を決めるなど、何と勝手な慈悲であることか――ああ、今だけではない、あのひとはいつもそうだった。例えば、遠い昔にも。
「……歳三のたっての頼みだ、もちろん、君の身上は、任せてもらおう。君は、この後どうするつもりなのだね?」
 主に問われ、鉄之助は逡巡した。
 正直なところ、日野へ辿りついた後のことなど、ちらりと考えてすらいなかったのだ。ともかくも、この重い責を果たすのに頭がいっぱいで――否、その後のことなど考えては、途中で動けなくなってしまいそうで、故意に頭の片隅に追いやっていたのだ。
 副長亡き後の自分に、いったい何が残されているのだと――
「――考えても、みませんでした」
 鉄之助は、本心から云い、自分の目許が、また熱いもので潤むのを感じて、顔を伏せた。
 そうだ、いったい何が残されていると云うのだ。あれほど心を寄せたひとは逝った。あのひとに心を奪われ、いまここにいる自分には、何も残されてはいないのだ。このさき生き続けるための力も、そのために目指すものも。
 だが、そんなことを、このひとたちの前で口に出来ようはずはない。
「……美濃の大垣に、俺の実家があって、そこに兄がいるはずなので――まずはそこに戻ろうかと」
 大垣には、兄・辰之助が帰りついているはずだ。他に当てはない、まずは帰りついて、それから――それから?
 それから、など、思いつきもしなかった。何もかもが空漠の中だ。現実味がなく、自分の生命ですら、ふわふわと頼りないものに思える。
「そうか」
 主は頷いた。
「だが、今は、知ってのとおり、薩長の幕軍残党狩りが厳しい折――ほとぼりがさめるまで、ここに留まりなさい」
「――ありがとうございます……」
 だが、残党狩りがひと段落するのを待っていては、この家に長々と厄介になることになるのではなかろうか。
 それは些か心苦しい、と云うと、
「君はそんな心配をする必要はないのだよ。歳三の願いだ、私たちは、君のためにできることは何でもしよう。――さいわい、息子の源之助は、君とあまり年も違わない。ここにいる間は、あれとともに学べば良いだろう」
「気兼ねせずに、ここを自分の家と同じに思ってくれて構わないのですよ」
 副長に良く似た面差しが、微笑みかけてくる。
 その唇からこぼれた言葉が、まるで副長の言葉のようにも思われて。
「――恐れ入ります……お言葉に甘えさせて戴きます」
 そう答えてしまったのは、多分、主の妻女ゆえだっただろう。
 深々と頭を垂れる鉄之助に、主たちは微笑みながら頷いてきた。その目には、わずかに光るものが宿っていて、かれらの失ったものが自分と同じであるのだと、鉄之助に知らしめたのだった。


† † † † †


鉄ちゃんの話、続き。
とっても書き辛い……


やっとこさ、日野本陣行ったのが使えるわ……
本当にこの辺、情報が……甥っ子・源之助の覚書に頼るしかないと云う。
つーか、日野本陣の建物って、どこまで昔の風情を残してるんだろう。仏壇って、ホントにあの棚の中に入ってたのか?
つーか、そもそもあそこに内風呂はあったんだろうか――あったよな、本陣だし、あの辺湯屋があったとか云う話もないよな? って云うか、“幸い風呂有り”って書いてあるじゃん!
それ以前に、話聞いたの仏間じゃねェ……! (仏間は四畳半、話聞いたのは八畳間) きちんと読め、自分! ……まァいいや。


早稲田の青空古本市がはじまったので、休みをいいことにいってきました(こういう時、シフト制っていいと思いますね)。
桂さんを! と意気ごんでいったにも拘らず、GETできたのは勝さん一冊(もう一冊あったけど、流石に¥5,000-は……)、鬼と総司の書簡集一冊、先生が一冊(昔NHKブックスから出てた『レオナルド・ダ・ヴィンチ考』の加筆修正版、みたいな)、あと探してた中島梓の『道化師と神』の4冊計¥4,000-。
桂さんが、ホントにねー。たかしゅぎは見つかるんですけども、桂さんはホントに見つかんない。逃げられてる? 逃げられてるのか、私?
釜さんや鬼の関連本も結構安く出てたけど、似たようなの幾つもあっても仕方ないし、それ以前に、知りたいことが載ってないんだよね、ああいう本って。
しかし、前に資料一覧作ったときからまたいろいろ増えてる(←……最初、そんなに集めないとか云ってなかったか、自分……)ので、自分メモも兼ねて、また一覧作ろうかなァ。あれだ、勝さん+高杉が増えてるんだよ! あと、箱館戦争関連。……でも、『箱館戦争資料集』は見当たんないんだけどね! あまぞんとか古本ネットとかでもね!
でもって、コンディヴィのミケ伝は、疲れ過ぎてて早稲田へ出向けず、今回は断念いたしました。まァ、二冊あったし、1割引じゃなくていいなら買えるもんな……


この項、終了。
次は阿呆話、の前に、資料リストでも作っておくかな……

北辺の星辰 18

 九月朔日、歳三は仙台に到着、その足で、東名浜に碇泊している開陽に、榎本釜次郎を訪ねた。
 船室に通された歳三の前に、ややあって、榎本たちが姿を現した。
「やぁやぁ、お久しぶりです、土方さん」
 云われて立ち上がった歳三は、榎本の傍に、見知らぬ男がいるのに気がついた。
 唇を引き結び、きついまなざしをした男だ。年のころは榎本と同じくらいか。だが、榎本にある生来の明るさのようなものはなく、どこかひねたような、そのくせやや尊大な風情である。
 誰だろう。江戸でかれに会った時には、このような男は、榎本のまわりにはいなかったように思ったが。
 そう思いながら、微笑みを浮かべて頭を垂れる。
「ご無沙汰しておりました」
「四月の脱走前以来ですからなぁ。――会津の方は、大変なことになっていると伺っておりますが」
「えぇ。実はその件で、榎本さんのお力を拝借できぬものかと思いまして……」
 そう云う歳三の目に、件の男が、小さく唇を歪めたのが見えた。嘲るようにも見える笑みだった。
 歳三は、思わず眉を寄せた。
 ――何だ、この男は。
 榎本が、沢太郎左衛門らとともに伴っているからには、相応の立場の人間なのだろうが、それにしても、この態度はいささか無礼に過ぎないか。
「――ところで榎本さん、こちらの方は一体どなたなのですか」
 にこやかな顔を作りながら問いかけると、榎本は、
「そうそう、紹介がまだでしたな」
 と云って、件の男を紹介してきた。
「こちらは松平太郎殿、元・陸軍奉行並であられる。今回の脱走に賛同して戴き、ご同道戴いたのです」
「それは」
 これには流石に、歳三も息を呑んだ。
 陸軍奉行並、と云えば、大鳥よりも更に上、軍事取扱である勝のすぐ下の官職にあったと云うことではないか。
 その上、松平姓となれば、云わば徳川の縁戚である。歳三など話にもならぬような人物だ。なるほど、野良犬よと蔑みたくもなるだろう。
「……大鳥総督のもとで参謀を務めさせて戴いております、土方歳三と申します。以後、宜しくお見知りおきのほどを」
 頭を垂れる歳三に、かれはかるく一瞥をよこしただけだった。
 ――どうも、この御仁は苦手だ。
 正直、このような態度に出られては、話の糸口すらも掴めまい――歳三は思い、再び榎本に向き直った。
「それで、榎本さん、私としては、貴方がいらして下さったことは非常に心強いのですが――江戸表は、今現在、どのようなことになっているのですか」
 かつて、あの四月の大脱走時には、勝に、海軍の脱走は、薩長の出鼻を挫くための、云わば恫喝のようなものだと云われた憶えがある。榎本と話はつけてあるので、勝たちの要求を薩長が呑めば、すぐにでも撤収させるつもりだと聞いていたのだ。
 まして、あれから早四月が経った、今さら、榎本たちが仙台まで来る、どういう理由があったのだろうか。
「まだ聞き及んではおられないのか。先日、上様――いや、今は前上様と申し上げようか――は、駿府へ転封におなりあそばした。今の上様は、田安家の若君・亀之助様に……我々は、前上様を清水湊までお送り申し上げたのち、二十日の夜に脱走したのだ」
「……何ゆえにございますか」
 歳三は問うた。
 将軍――否、既に“前の将軍”か――が駿府へ転封になったと云うことは、朝廷の沙汰は無事に下り、特段争いも起こりはしなかったと云うことではないか。
 もちろん、沙汰の下る前には、上野で彰義隊薩長と戦ったと云う話は歳三も聞いていたが、それとても、あくまでも沙汰の下される前のことであり、それ以降には、越後やこの奥州での戦の噂は聞いても、江戸表ではその気配すらないと、そのように思っていたと云うのに。
薩長の云うなりの御沙汰には、到底納得がいかんのです」
 榎本は、激しい口調で云った。
武州まわり二百万石に減封ならばまだしも、駿府へ転封の上、石高も七十万石にとは、あまりの御沙汰。その上、一度は幕臣に任された江戸鎮撫の任も薩長の手に引渡され、我らの立つ瀬もなきような有様。勝安房守様は、思いとどまるよう仰せになったが、とてもとても……」
 それでは、かれの脱走は、勝の意に反するものなのか。
 歳三は沈黙した。
 それでは、この先榎本と力をあわせていくべきではないのではないか――しかし、会津の、あるいは幕軍の窮地を救うには、榎本の率いる幕府艦隊の力は欠かせない。だが、榎本の脱走を勝が諌めたのであれば、このまま歳三が戦い続けることもまた、勝の意に背くことになるのではないか――
 思いは、幾千に乱れた。
 だが。
 歳三にはもうひとつ、新撰組を無事に終わらせると云う使命もある。ただ会津で隊士たちを死なせるのではなく、終わらせるべき時に、かれらの納得のゆくかたちで新撰組を消滅させること――そのためには、このまま会津を倒れさせるわけにはゆかぬのだ。
「……同感でございます。それで、榎本さん、ものは相談なのですが」
「何でしょう、お力になれることならば」
会津表の窮状はお聞きかと存じますが、その件で、奥州取りまとめのために、幕府艦隊に後ろ楯になって戴きたいのです」
 そして歳三は、米沢や白石の現状について、榎本らに切々と訴えた。
 会津藩首脳は、意地があるばかりで能力のないこと、米沢が恭順に転じ、庄内も孤立しつつあること、白石の奥州同盟公議府は、輪王寺宮がおわすだけで、同盟国のひとつである会津の窮地にも、動く気配すら見えないこと――
「――かくなる上は、榎本さんと幕府艦隊だけが、頼みの綱なのです。どうぞ、仙台侯を説いて、奥州同盟を文字通りのものと為し、会津を苦境よりお救い戴けますまいか」
 会津のためばかりではない、速やかな新撰組の最期のためにも。
「あいわかった」
 榎本は、力強く頷いた。その後ろで、松平が渋い表情になるのが見えた。
「私とて、このまま幕軍が無為に潰されるのを見るには忍びない。――幸いと云うべきか、明後日、青葉山城へ登城することになっている。同盟諸藩の会合が開かれるのだそうだ。是非、土方さんも同道され、仙台候に、会津の件を言上下され」
「……わかりました」
 ちょうど良い、仙台が、どの程度本気で奥州同盟を維持しようとしているのか、それをこの目で確かめてやる。
 かれらが本気で同盟の維持を望むのならば――そうだ、まだ会津にも、そして歳三にも、勝機はきっとあるはずだ。
 正直、松平の、不満げなまなざしが気にはなったが、しかし、それに頓着するには、歳三の持ち札はあまりにもすくなすぎた。縋れるものなら藁にも縋ろう、だが、そこまでしても、結果が芳しいものになると云う確信など、持てはしなかった。榎本が何をするつもりなのか、何を望んで脱走したのか、歳三にはわからなかったから。
 ――同床異夢たァ、こういうことを云うんだろうか。
 とは云え、“同床”と云えるほど、歳三と榎本との間に同じ目的があるのかも、まったくわかりはしなかったのだが。
 ――まァいいさ。
 物事は、為るようにしか為らぬ。歳三にできるのは、せいぜいが、与えられた場で懸命にもがいて、すこしでも己の望む方へとその軌跡を撓めることだけだ。
 榎本に差し出された手を握り返しながら、歳三は、精一杯の笑みを浮かべてみせた。


† † † † †


鬼の北海行、続き。仙台到着。


予め謝っておきますが、松平太郎さん好きのひとは、この先読んで楽しくないことが多いと思います。
何か、タロさんは、箱館の陸軍内では評判が良くなかった+鬼への当たりは良くなかった、らしいので、書き方もそんなになると思うので。
まぁ、別件で聞いた話では、タロさんは自分の家に対するコンプレックスが酷く、自分に優しい相手以外には当たりがきつかった、とのことなので、まぁそれはそれらしく――っても、全然関係ない鬼に、そんなとこまでわかるかい! ってカンジなので、総じて“厭な人”になると思います。ご了承ください。
……と思ったけど、ゴメン、いろいろ聞いてると、タロさんに嫌われるのは鬼にも悪いところがあるわ(汗)。
つーか、何て云うの、鬼、やっぱ九尾の狐かも(苦笑)。妲己(not藤竜)とか、って男ですが(笑)。白面金毛でもなく、毛並みは煤けた黒だけど(笑)。何かこう、「土方の奸媚に迷い」(by山南さん)って、釜さんに関しても云えるわね(苦笑)。
とは云え、鬼視点なので、あんまタロさんを良くは書けないけど――その辺のアレコレも、なるたけ書くようにしよう……(汗)
しかし思うんですが、鬼の一体どこが“奸媚”だったんだろう……やァまァ“奸”はアレとしても、“媚”の方がねェ……何で誑かされてんの? 解せねェなァ……


関係ないですが、最近ちょっと以蔵が気になります。例の“人斬り”以蔵です。
勝さんの護衛やってたからとか何とかあるんですけど、やっぱアレだ、惚れこんだ相手に、最後の最後で裏切られたって云うのがねー。何とも云いがたく可哀想で……(あとね、ちょっと以蔵、総司に似てるとこがあるんだよね、自分の頭でものを考えないとことか、それでいいように使われちゃってるとことか――あ、顔は似てませんよ、勿論)
その点、鬼なんか幸せだったよな、勝さんは裏切らなかったもん、と思うと、その辺のアレコレもあるのかも知れませんが。
あああと、本が手に入ったからもありますが、大久保一翁さんも最近好き。でも不動の一位は勝さんですが(笑)。
つーか、レアな一翁さん(中公新書)が見つかったんだから、桂さん(同)も早く出てきてくれませんかのぅ……


でもって。
歴史読本』S54年9月号“最後の戊辰戦争――五稜郭の戦い”が、古本市で¥300-で出てたのでGetしたのですが。
えーと、竹中春山さんて、誰、つーかどんな人? 鬼と同じ裁判所頭取だったっぽいのですが、しかもタロさんより偉い元・幕府陸軍奉行(但し、鳥羽・伏見の戦いの後、責任を取るかたちで免職)だったらしいのですが、ちっともわかんない。つーか鬼、ちゃんと仕事してたんかオイ! あたしは、そっちの方が不安になって参りました……
って思ったら、どうもこの方、戦いが終結する前に外国船で東京に脱出してたそうで。――“東京”ってことは、鉄ちゃんと同じくらいか、足止めくってない分、もうちょっと前の時期かだな。Wikiで見ても、ググってみても、写真も見当たらない。明治24年まで生きたんだから、何かあったってよかろーに。うぅむ。
あ、『歴史読本』は、ついでに'00年12月号と'04年3月号(どっちも新撰組)も買いました。だ、伊達の殿の号も買えば良かったかなァ……


この項、終了。
次は鉄ちゃんの話。

小噺・箱館新政府

「……土方さん」
「何でェ」
「あんた、箱館じゃあ、結構大変だったんですってねェ(しみじみ)」
「……どうした総司、何か悪いものでも喰ったか?(真顔)」
「……何でそうなるんですよ」
「いや、おめェがそんなこと云うなァ、具合が悪ィか、何か企んでるときかくらいだからな」
「俺も、ちゃんとあんたの心配とかしてたでしょうに!」
「……そう云やァそうかも知れねェが、おめェに心配されると、どうにも尻がむず痒くなるんだよなァ」
「失礼なことを云いますねェ、あんた」
「本当の話だから、仕方ねェだろ。――それァともかく、何だってェ、いきなりそんなことを云い出しやがるんだ?」
「や、こないだ、大鳥さんとか中島三郎助さんとか、あと赤やら黒やらの制服の連中やらが来てたんで、話を聞いてたんですけども」
「あァ……」
「陸軍奉行並の松平太郎さんとやらが、あんたにひでェこと抜かしやがってたって、皆が云ってたんで」
「奉行並ってェ、そりゃ、江戸での話だろう。箱館じゃあ、あん人ァ、副総裁だぜ? ――それァともかく、ひでェことってなァ何だよ?」
「や、あんたの生まれがどうこうってェ、関係ねェ会議の席で論ったとか何とか……」
「あァ、そんなこたァ、永井さんだってよく云ってたろうになァ」
「でも、会議で揉めた時に、八つ当たりみてェに云いやがったってェ、中島さんが胸糞悪そうに云ってましたぜ? 大鳥さんも、あんまいい顔はしてませんでしたしねェ」
「まァ、あん人ァ、“松平”だからなァ。公方様に連なる血筋だ、俺みてェな農民上がりにゃ、我慢ならねェところがあったんだろうさ」
「まァ、その辺ァどうか知りませんがね。でも、その人ァ本当に、よくは云われてませんでしたぜ。“こすっからい”だの“狡賢い”だの――せいぜいが、黒い制服の幾人かが、“あん人ァ誤解され易いだけなんだ”ってェ云ってたくらいでさァ」
「俺にゃあ何とも云い辛ェところだなァ。何しろ、あん人が苦手だったんで、用がない限りァ近づかねェようにしてたからなァ――まァ、それァ、釜さんにもそうだったんだが」
「……あんたァ、相変わらずまわりァ敵だらけなんですかよ」
「何云ってやがる、敵にしちまわねェように、つかず離れずなんだろうが」
「……そうきましたかい」
「そりゃあそうだろ。ともかくも、一蓮托生になっちまってるんだ、揉めずにやってけりゃあ、それに越したこたァねェんだよ。だから、“嫌い”じゃあなく“苦手”ってェことにしとくんじゃあねェか」
「……あんた、それ、本当は嫌いだったってェことじゃねェですかい」
「だから、“苦手”だったんだってェの」
「……(溜息)……まァ、あんたが自分をどう誤魔化そうが構やしませんけどね。――しっかし、榎本さんってェひとも、人望ねェですねェ。碌なこと云われてませんでしたぜ」
「あ? 誰が何て云ってたよ?」
「まずは中島さんが“腰抜け”って云ってて、大鳥さんは“机上の空論しかない”って云ってましたぜ」
「大鳥さんに云われるってなァ、相当なもんだなァ(苦/笑)」
「他にも、浮っついてるだの何だの、好意的な話ァ聞きませんでしたねェ」
「そりゃあ凄ェなァ(笑)」
「あと、箱館奉行だった永井さんは事なかれだとか――って、このひとってな、近藤先生が長州まで護衛していった、大目付のあのひとで?」
「あァ。まァ、だから俺のことァ、“野良犬風情が”ってェ思ってたんだろうさ。まァ、永井さんから見りゃあ、俺なんざァそんなもんだったんだろうがな」
「俺ァ、あんまりあの人ァ好きませんでしたがねェ、お高くって」
「まァ、俺も“苦手”だったなァ(笑)」
「(笑)――しかしまァ、そんな烏合の衆みてェな軍隊で、よくまァ薩長の輩と戦えたもんですねェ」
「だから、早々に負けちまったんだろ」
「……確かに」
「まァ、俺ァ勝さんの命で動いてたわけだしな。その勝さんとひと悶着あっておん出てきた釜さんとじゃあ、ハナから目的が違って当然だァな」
「それで、あんたが死んだのァ、釜さんの差し金だってェ噂があったりしたんですかい」
「ほォ、そんな噂がなァ」
「らしいですぜ。釜さんたちァ、本当に箱館の人間からも嫌われてたみてェですからねェ、そんな噂にもなったんでしょうけども」
「まァ、それァねェとァ思うがな――ま、だからって、釜さんたちに背中任せるなんざ、怖くてできねェくらいにゃあ、俺も信用はしてなかったがな(笑)」
「俺ァ、箱館まで行かなくて良かったのかも知れませんねェ。とてもじゃあねェですけど、そんな連中と一緒にやっていけやしませんや」
「中島さんと、まァ大鳥さんは良かった方なんだがなァ。――負けるべくして負けたんだ、仕方がねェさ」
「人生の最後に、そう云う諦め方ってのァどうなんですよ」
「諦めてるんじゃねェよ。俺ァ、勝さんの命が果たせりゃあ、それで良かったんだ、それ以外は瑣末なことさ」
「……また“勝さん”ですかい」
「何だ、そのもの云いは。勝さんってェのァ、本当に大した御仁なんだぜ」
「はいはい、わかってますって。……まったく、耳にたこができまさァ」
「おめェ、最後まであん人の世話になったじゃねェか。そのことも忘れて、そのもの云いってなァ……」
「はいはい。――こっからが長ェんだよなァ、こうなると。さっさと源さんとこに退散しようっと。……土方さん、じゃッ!(脱兎)」
「あッ、待ちやがれ! ……あの野郎、人の話を最後まで聞かねェで……!」


† † † † †


阿呆話at地獄の八丁目。
今回は箱館新政府の話。や、銀/魂語りが間に合わないんで。


作中の釜さんタロさんのあれこれは、陸軍組の談話なので、海軍組はまた違う意見だとは思うんですけども。
……えーと、何かいろいろ聞いてると、箱館新政府の構図が見えてきましたぜ。
大鳥さんを中心にして、鬼と中島三郎助さんが右だとすると、左の端がタロさん、その隣りに釜さん、ちょっと鳥さん寄りで永井尚志さん、って云うカンジみたいです。
額兵隊は(星さん筆頭に)タロさんと折り合いが悪く、伝習士官隊(多分)はそうでもない。海軍は釜さん寄り(当然だ)、箱館奉行配下は(奉行の永井さん以外は)釜さん+タロさんが嫌い、と。
まァあれだね、海軍より陸軍の方が年齢が高い(永井さん、中島さんはアレとして、鳥さん37、鬼が35、釜さん33、荒井さん34、タロさん31、甲賀さん30、だもんなァ)し、その辺で、陸軍組は、海軍畑ほどフィーリングでは突っ走れなかったのかもなァ。
つーか、↑の人間関係考えてみると、ものの見事に“烏合の衆”だァね。そりゃあ、勝てるわきゃあねェって云う(苦笑)。


つーかぶっちゃけ、タロさん、鬼のこと嫌いだったでしょう。
考えてみたら、タロさんって勝さんの部下(タロさんが幕府陸軍奉行並の時、陸軍総裁は勝さん)だったわけだし、鬼も勝さんも成り上がりで、なおかつどっちも妙な人望はあったし。
鬼が勝さんの“御申し含め”で動いてるのは皆知ってたはずなので、その辺も鬱陶しかったのかもね(だって、釜さん2回目の脱走は、本当に勝さんの反対振り切って出てきてるわけだし)。まァ、それは釜さんも一緒だったんだろうけども。
とりあえず、鬼が仲が良かったのは、中島さん、と、辛うじて鳥さん、なのかもね。
やっぱ、箱館新政府も、鳥さんがかすがいかァ……(←以前に書いた、“明治維新をひっくり返せ! 脳外シュミレーション”でも、分裂しがちな新政府の人間関係を、鳥さんが取り持ってたと云う……) ある意味スゲェや、鳥さん。これこそ人徳だな!


でもって。
Wiki見たら、永井さんって、三河奥殿藩の藩主の息子なんじゃん! それにしちゃ、出世が遅……いやいや!
しかし、祐筆→陸軍奉行並のタロさんと云い、微妙な官位のひとが多いなァ、ここ。家柄は良いけど、本人自信満々だけど、出世できなくて“正当に評価されてない”って思ってるみたいな――って、鬼が一番敵に回しやすいタイプじゃん!(爆)
その辺のコンプレックスとか何とかが、微妙に炸裂しちゃったのが、箱館新政府だったのかな? (必要のなかった開陽の江差出撃とか、中止されなかった甲鉄艦接舷攻撃とか) だとしたら、ハナっから巧い具合にことが進む、わきゃあねェよなァ……その上、鬼に下手に人望があるもんだから、切るに切れないって云うジレンマが、ねェ。
まァ、鬼を撃った弾の出所が、味方の銃だったって、ちっともおかしくァねェよなァ、これじゃあ……ふふふふふ。


そして、ふと気がつけば、勝さんフリークが小学生のときからだった自分。それはどうだ。
中学に入ってすぐに、子母澤寛の小説とか読んでたよなァ。冷静に考えるとおかしい。
しかし、これだけ年季が入ってる(かれこれ×十年ですから!)と、もう、痘痕もえくぼって云うか(違う)、どんなぐだぐだな勝さんでもOKになってきますね! 愛ですよ、愛!(笑)


さて、次は鬼の話。
いよいよ仙台か……噂の釜さんとの遭遇、になるか……

めぐり逢いて 25

 港々で足止めされて、横濱に着いたのは、六月に入ってからのことだった。
「私が助けてやれるのは、ここまでだ」
 船を下りる時、見送ってくれた松木が云った。
「この先は、君が独りで往かねばならない。――官軍の幕軍残党狩りは、まだ続いていると聞く。気をつけていきなさい」
「はい――ありがとうございました」
 考えてみれば、箱館から横濱までの二ヶ月足らずの間、松木には本当に世話になった。
 もう会うこともないだろうが――この恩は、一生忘れまいと思う。
 そのとおりを口にすると、松木は笑って手を振った。
「何、私は土方先生に頼まれただけさ。あとは、君の仕事だ」
 そうだ、この先は鉄之助の仕事なのだ。自分が独りで、日野までを往かねばならぬ。薩長の輩に見つからぬよう、気を引き締めてゆかねばならぬ。
 もう一度松木に礼を云い、鉄之助は一歩を踏み出した。
 大東屋で、箱館の通貨を江戸のものに替えてもらい――貨幣の質が悪いと云うので、額はかなり減ってしまった――、刀はどちらも売り払った。本当は、副長の刀を手離したくはなかったのだけれど、残党狩りが厳しいとは大東屋のものからも聞いた、迂闊に目だって、使命を果たす前に捕らえられるわけにはいかなかった。
 ともかくも、目指すは日野だ。
 鉄之助は、隊服を脱ぎ捨て、乞食に身をやつし、東海道を北へ向かった。
 川崎宿品川宿と辿ってゆくと、つい一年ほど前に、同じ道を辿ったことを思い出す。あれは、大坂から富士丸に乗って江戸へやって来た時だ――副長や局長、沖田も兄もいた。品川について、そこから江戸へ入ったのだ。あの頃はまだ、こんな未来が訪れるなど、思ってもいなかった。
 おぼろげな記憶を頼りに、日本橋を目指す。
 日本橋からは、東海道のみならず、甲州街道も発している。日野宿へは、そこから行くのがもっともわかりやすい――但し、江戸市中をうろつく薩長の輩に不審がられないよう、乞食らしいのろのろとした足取りで。
 品川・日本橋間は、特に気をつけて、数日街道近辺をうろうろしながら移動した。とにかく、目立つことは許されなかった。
 江戸城下――だが、江戸は既に、“東京”と改められたのだと云う――をうろつきながら、ゆるゆると西へ向かう。
 江戸城を北へ大きく迂回して、内藤新宿を目指す。
 その手前、小さな川の流れる場所に、鉄之助はそっと訪れた。
 千駄ヶ谷の、植木屋の家。板塀の向こうに、小さな屋根が見える――あれは、沖田が臥せっていた小屋だ。
 沖田の墓所を、鉄之助は知らない。知っていたところで、墓参できるわけもない。見慣れぬ乞食が寺の内に入ってきたと、不審に思われるか、追い出されるかだろう。
 だから、沖田のいた小屋に、外からそっと手を合わせた。
 足許で、かすかな声がにゃあと鳴く――見下ろせば、ちいさな三毛の猫が、つぶらな瞳でかれを見上げていた。
 そう云えば、このあたりは猫が多い土地なのだと聞いたことがあった。
 沖田は、子供や小動物が好きだったから、元気であったなら、喜んで猫たちの相手をしていたのだろうに。
 そんなことを思いながら、猫の喉元を掻いてやると、
 ――市村君。
 不意に、懐かしい声に呼ばれたような気がした。
 ――沖田さん?
 まさか。そんなはずはない。
 と、猫がまた、にゃあと鳴いた。
「……お前かい?」
 鉄之助は呟いて、そっと猫の首筋を撫でた。
 あるいは――本当に、沖田がここにいたのかも知れない。鉄之助が、無事に副長の命を果たせるように、ここで待っていて、励ましてくれようとしたのかも。
 ――必ず、この使命だけは果たします。
 何もかも失って、最後に残されたこの使命だけは。
 もう一度、板塀の向こうに黙祷し、鉄之助は再び歩きはじめた。
 千駄ヶ谷までくれば、内藤新宿は目と鼻の先だ。
 信濃・高遠藩邸をぐるりと回り、追分から甲州街道に入る。
 内藤宿は相変わらずの華やぎで、一年ほど前に、この場所で甲陽鎮撫隊の面々が、士気を鼓舞するために酒宴を張ったのだった。
 街は変わりはしないのに、あの時いた人々はもういない――そのことに、覚えず涙がこぼれるのを、奥歯を噛みしめて堪える。
 ここで嘆いても仕方がない。むしろ、ここで嘆いて人々の不審を買い、そのために捕われるようなことがあっては、副長にも、箱館に残る人々にも申し訳が立たない。
 ――日野に辿りつくまでは……
 何にも心を動かさず、ただ黙然と往かなければ。
 それから先も、ゆっくりとした旅路だった。甲陽鎮撫隊の時には三日で、かつて副長が少年のころには一晩で、歩いたと云う道を、鉄之助は幾日もかけて歩いていった。
 街道筋にいる薩長の兵に怪しまれないよう、幾日も同じところに居続けたり、時には来た道を戻って江戸へ行くふりをもした。物乞いをし、施しを受け、嘲られ、あるいは礫で打たれ。
 そうしてようやく日野に辿りついたのは、七月のはじめ、小糠雨の降る夕方のことだった。
 日野の本陣に行き、門の内を伺っていると、
「お前のようなものがうろついては、本陣の威儀に関わる。早々に立ち去れい」
 と、下男らしき男に押し出された。
 さもありなん、乞食が中を窺っているとなれば、追い出しにかかるのがこういうところの常だ。
 だが、鉄之助にも使命がある。ここまで来て、立ち去るわけにいくものか。
 鉄之助は、男の脇をすり抜け、門の内へ入りこんだ。
「あッ、お前!」
 そのまま、式台ではなく、脇の方へ回りこみ、勝手から館の中へ入り込む。
「何ですか!」
 女たちが叫び、追いかけてきた男に取り押さえられる。
「あるじ殿に――佐藤彦五郎殿にお目にかかりたい」
 鉄之助は、必死で云った。
 男の戒めをもぎ離し、懐から、副長に託された文と写真を取り出してみせる。
「これを御覧戴ければ、おわかりになるはずだ。箱館より参ったのだと、左様お伝えあれ」
 女の一人が、恐る恐るそれを受け取り――はっとした顔で、奥へ声を上げた。
「旦那様――奥様!」
 声に弾かれるように、足音が近づいてくる。
 鉄之助は顔を上げ、かれらが訪れるのを待った。
 主と思しき壮年の男が、女から写真と文を受け取る。後から来た妻女と思しき女が、それを不安げに覗きこむ――その顔だちは、副長の面差しとよく似通っていた。
「――間違いない、歳三の手だ。……君は、一体……」
 主が、目を見開いて云った。
 鉄之助は、深く頭を垂れて答えた。
市村鉄之助と申します。副長に――土方先生に、小姓としてお仕えしておりました」
 ここまで云って、ふと気が緩んだ。
 目頭が熱くなり、やがて、その熱が頬を伝って流れ落ちるのがわかった。
「土方先生に――使いになれと命を受けました……どうか……」
 喉を熱いものが塞ぎ、それ以上を口にすることができなかった。
 ここまで来て、だが、己の伝えるのは吉報ではない。あの人が死んだと云う、死の知らせなのだ――
 主は、無言でかれのその様をみつめていたが、
「――話を聞こう。その前に、風呂を使うといい。……おのぶ」
 妻女に声をかけ、奥へと下がってゆく。
 鉄之助は平伏して、暫、涙を流していた。


† † † † †


鉄ちゃんの話、続き。横濱〜日野到着。
今回、うちで重販商品だった+¥1,260-とお安かった、ので買っていた『新宿文化絵図』(新宿区発行)が大活躍でした。
つーか、総司のいた植木屋って、内藤新宿の重ね地図に載ってる、駅の近くのあそこ? 何だ何だ、職場から歩いていけるじゃん(遠いけど)。今度、沖田番引っ張って行ってみるかなァ。つーかアレ、ぎりぎり渋谷区なの、ここ?


横濱からは、一人旅〜。
正直、ルートがわからん(脇道を行くなら、川崎街道とかなんだろうけど、結構目立ちそうだから、やっぱ江戸市中から甲州街道?)のですが、この辺は本当に情報がないので、もうどうにでもなれ。
ああ゛、身内から突っ込まれましたが、猫が三毛なのは、単に黒猫じゃないのがよかったからです。そして別に三毛は総司じゃありません。ありませんてば!
……まァ、総司でもいいんだけど。三毛(♂)は船に乗せられるほど貴重(珍しいから、お守り的な)らしいのですが、総司の生まれ変わりなら、まだ小さいだろうしね。生まれて1年にもならんだろうし。船には、もっと大きくなってからってことで(笑)。


そうそう、ふと思い立って、鉄ちゃんの話、17話目ってどの辺だったかなー(や、鬼の北海行が17話目になったし)と見直してみたら。
あれ、開陽沈んでるじゃん。つーか、蝦夷地全島制圧してるよ! うぅん、そりゃあ中々進んでない感じだなァ。
この分だと、鉄ちゃんの話が終わる話数(30弱)でも、鬼はまだ松前とか攻略してそうだ……
まァ、鬼の話の方は、普通小説では出てこないような細かいとこまで書いておきたいので、ゆっくりいきますよ。こないだのとこだって、良順先生と酒呑んでる話は、他ではちょっと見ないしね(笑)。


そう云えば。
昔ジャンル(陰陽道系)でアレコレやってた時にお世話になった方とか、結構新撰組好きいたなァと、ふと思い出してみたり。
鬼好きのI先生、はこないだお見かけした時はお元気そうだったからアレとして、芹鴨好き(奇特だ……)のF様、お元気でいらっしゃるでしょうか……よもや、こんなに経ってから、私がこんなもん書いてるとは思いもせんでしょうが(苦笑)。しかも、新撰組書いてるくせに、勝さん至上主義と云う(笑)。
やァ、人のゆくえって、わからないもんですよねェ。


関係ないのですが、今、トルティリーニ(イタリアのワンタンみたいな)が作りたい……ミラノ近辺の家庭料理なのですが。ヴェネツィアのバールで食べたのはクリームソースだったので、今度はコンソメで、是非……
パスタマシンなくても、麺棒でできるっぽいので、今度チャレンジしてみようかと。買ったレシピ本には、ニョッキも載ってたので、それもいいなァ――つーか、今日の晩飯当番は、ニョッキにしてみるか……? (好き好き♥) →結局、ニョッキのグラタンに致しました。うまうま。


この項、終了。