小噺・安眠妨害

「うおぉ、寒ィ寒ィ! おい総司、ちっと詰めやがれ(布団を持ち上げ、滑りこむ)」
「うおわ!? 冷てェ、冷てェですよ足ィ!」
「俺だって冷てェんだ、我慢しろ(もそもそ)」
「あんたが入ってこなきゃあ、俺ァ冷たくならなかったんですがね?」
「おめェだって、昔よく俺の寝床に入ってきやがったじゃねェかよ」
「あァ、京の冬ァ寒ィですからねェ。いっつもは一ちゃんとこに行ってたんですけど、夜番でいない時にァ、仕方ねェですからねェ」
「……いっつもァ、斉藤が餌食かよ……」
「だって、部屋が隣りでしたからねェ。それに、むこうだって、帰ってきて、冷たい足で俺の布団ん中もぐってきやがりますし」
「じゃあ、俺が入ったって構わねェだろ」
「でもあんた、寝てる間に、こう、片足のっけてきやがるじゃあねェですかい。重いんですよ、あれァ!」
「……そうだっけか」
「そうですよ! あと、頭ァ締め上げてきたりとか――それでよく、女郎屋で、女に袖にされませんでしたねェ」
「……特に何も云われなかったがなァ」
「絶対、後で何か思われてると思いますけどねェ」
「……(気ィつけよう)それァともかく、斉藤と一緒に寝てたってェ、よくあれやこれやの噂んならなかったな?」
「あ? 何がですよ?」
「いや、だから衆道が流行ってたろう、あん時ァ。それでよく、おめェらの“仲”が噂んならなかったもんだなァと」
「……土方さん」
「あ?」
「俺と一ちゃんの間に、何かありそうに見えますかい?」
「いや、全然」
「でしょう? そりゃあもう、火を見るよりも明らかに何もねェってわかりますからね、噂の立ちようもありませんや」
「(その言葉ァおかしかねェか)……そうか」
「起こしに来た隊士も、何も云わずに布団はぐりますからねェ。――でも、あんたが俺の布団に入ってた時ァ、そう云やァ何か固まってやがったなァ」
「“鬼の副長”が、おめェと同衾してたからじゃねぇのか」
「そうかも知れませんねェ。あと、あんたに布団取られて、仕方なくあんたの部屋で寝た時も、やっぱり固まられましたねェ」
「そう云やァ、俺も起こされなくて、すこし寝坊したなァ。その割にゃあ、噂も何も立たなかったがなァ」
「まァ、あんたと俺の間にも、何もありそうにねェですからねェ」
「むしろ、おめェが何もなさそうなんだろ」
「おや、酷ェことを。――しかし、箱館じゃあ、みんな男同士で同衾してたって聞きましたが……あれァ本当のことなんで?」
「仕方ねぇだろ、蝦夷地の寒さってのァ、京とは較べものにならねェほどだからな」
「野村さんなんか、“可愛い小姓持てるんなら、何だって売ってやるって思った”とか云ってましたしね。“榎本さんは、可愛い湯たんぽが欲しくって、銀を連れてったに違いない”とか、真剣に話してましたし」
「あァ、確かに、ちっと可愛い見目の奴ァ、夜はひっぱりだこだったなァ。あれだ、朝目が醒めたときに、いかつい顔じゃあげんなりするんだとさ」
「そんなに寒かったんですかい、蝦夷地ってのァ」
「あァ、ひとり寝じゃあ、朝にァ凍え死ぬかと思うくらいだ。火を焚き続けられりゃあよかったんだが、生憎、金も薪もねェときてやがる。仕方ねェから、男同士でも同衾せざるを得ねェのさ。俺も、寒くてよく寝られねェことがあったしなァ、そりゃあ、誰かと一緒に寝たくもなるさ」
「島田さんは不人気だったって聞きましたけど?」
「奴ァガタイがでけェからなァ。俺も、箱館では一緒に寝たこたァねェなァ。寝台が小さいんで、あいつがくると俺の場所がなくなっちまうんだよ」
「じゃあ、あんたはもっぱら市村君で?」
「うん、あんまり俺とばっかじゃあいけねェかと思って、相馬や野村と寝たこともあるんだが――野村は寝ぼけて俺のことはたきやがったし、相馬は俺の隣りじゃ寝辛そうだったしで、結局はなァ。それに、俺のところから出しても、向こうは向こうで市村の取り合いになってるだけのようだったし、それなら同じかと思ってな」
「そういう熾烈な争いがあったとァ知りませんでしたぜ」
「まァ、誰でも、寝てるうちに凍死したくァねェもんなァ」
「まったくですぜ。そう云やァ、あんたと市村君と島田さんで、川の字んなって寝たことがあるってェ、島田さんが云ってましたけど」
「あァ……そんなこともあったなァ」
「で、あんたと島田さんが同時に寝返りうったんで、市村君が潰されて、可哀想なことんなったってェ……」
「……まァ、よくある事故だァな」
「……市村君も気の毒に……普段もきっと、あんたに足のっけられるわ、頭ァ締め上げられるわで、寝苦しい日々を過ごしてたんでしょうねェ」
「やかましいわ! 凍死するよりァ、なんぼかマシだろうが!」
「……ところであんた、そろそろ足もあったまったでしょう。自分の布団に戻りなせェよ」
「……折角あったまったんだ、冷てェ廊下と冷えきった布団でぶるぶるすんのァ御免だな」
「それァ、このままここで寝るってェことなんで?」
「それ以外の何に聞こえるってェんだ?」
「……とりあえず、足のっけたりとか、頭締め上げるのァ勘弁して下せェよ……」
「あァ、まァ気ィつけるさ(布団をばふり)」
「……本当に気をつけてくれるんですかねェ……(溜息)」


† † † † †


阿呆話at地獄の五丁目。
夏の盛りに“寒い”話とは、1:鬼と総司のいるのは酷寒地獄、2:実は地獄には季節がない、3:実は日本じゃなくて南極圏、さてどれ?


とりあえず、色気も何もない、男同士の同衾の話。皆必死。
まァ、この時代、電気毛布とかエアコンとかないし、アルミサッシもないから箱館なんか檄寒だったろうしねー。温暖化しつつある今の函館の2月の平均気温は−2.9℃だそうですが、当時はもっと寒かったはずだし、夜なんかもっと冷えこむしねー。
とりあえず、箱館での鬼が不眠症だったってェのは、多分寒さのあまりよく眠れなかっただけ(だって、今の東京の冬だって、足が冷えきってるとよく眠れないですよ?)だと思うんですが。つーか、その話(=不眠症)の出元どこよ?
ちなみに、同衾と云っても、背中合わせに寝てたようですが。鉄ちゃんとか銀ちゃんとかだと、きっと(まだ小柄だから)抱えこむようにされてたんだろうなァ。……あったかそう。


ちなみに設問の正解は、4:今書かないと私が忘れそう、でした。聞いた時期が悪かったなァ。真夏だなんてさ……
あ、銀/魂19巻で鴨ちゃん出ましたが、銀/魂語りは10月に持ち越させて戴きたいと思います(10月にならないと、けりがつかないみたいなので――ひとつき遅れだったんだから、連続刊行にしてくれりゃあ良かったのに……)。


さてさて、次は鉄ちゃんの話の続きか……