小噺・井上源三郎の儀

「おう総司、土産だぜ」
「あれ、何です? ――ああ、甘春堂の炙りもちじゃあねぇですか」
「おめぇ、よくこれ買って食ってたろう。ついでがあったんで、すこしな」
「わざわざ京の七条まで?」
「馬鹿、内藤新宿だ、出店があったのさ」
「へぇ、そいつァ――ありがたく戴きますぜ。源さんと一緒に食べまさァ」
「……おめぇ、こないだ源さんいねぇって云ってなかったか?」
「まァ、いろいろありまさァね」
「(何だそりゃあ)……多分、昔と味が違うってぇ云うぜ、源さん」
「ああ、そう云や、こないだ買ってった高幡さんの饅頭にも、そんなこと云ってましたよ。まァ、不味いたァ云ってなかったんで、良いんじゃないですかね」
「――そうか」
「しっかし、懐かしいですねェ。俺ァ、よく源さんと菓子食ってたからなァ」
「そうか? 俺ァ、おめぇと碁を打ってたのはよく見たがな」
「あァ、俺の碁打ちは、源さんに習ったようなもんですからねェ」
「……初めに教えてやったなァ、俺じゃねぇかよ」
「だってあんた、決まりごとは教えてくれたけど、手はさっぱりだったじゃねェですかい。俺に勝ったの、結局いっぺんこっきりでしたしねェ」
「……うるせェよ」
「どう打ってくかってェのを教えてくれたのは、源さんでしたからねェ。でも、あんたも後で源さんに仕込まれてたでしょう。まともな碁を打つようになってたじゃあねぇですかい」
「……“酔っ払い碁”なんぞと云われちゃあ、教えを請わんわけにゃあいかねぇだろうが」
「あれはあれで、面白かったですけどねェ。――碁打ちと云やァ、思い出したんですけど」
「何でェ」
「いっぺん、あんたと喧嘩して、俺が逃げてったことがあったでしょう。ほら、山崎さんと源さんが、縁側で碁を打ってて」
「あァ、そう云やァあったなァ」
「そうそう、俺が碁盤飛び越えてったら、袴の裾で石ィ崩したらしくて、源さんが怒ってねェ。追っかけてきたあんたの足さらって組み伏せて、すげぇ声で“総司ィ!!”でしたもんねぇ」
「ありゃ、何が起こったんだかさっぱりだったぜ。源さんに、膝で乗っかられてるこたァわかってたんだが……」
「そんだけ怒ってたってことでしょうさァ。あんたが組み伏せられてるもんで、俺もおそるおそる戻ってきたら、ふたり並んで坐らされて、礼儀のはなしから説教でしたもんねぇ」
「山崎が宥めてきてたのが微妙だったんだが――あれァ、賭け囲碁でもやってたのか?」
「でしょうねェ。それも、かなりのもん賭けてて、源さんの手がかなり良かったんでしょう。山崎さん、何か喜んでるような風でしたもん」
「――山崎の野郎……」
「しっかしまァ、俺ら、よく説教くらいましたよねェ。ほら、俺があんた寝込ませたときとか」
「……どっちの話だ」
「どっちもに決まってるでしょう。ああでも、あんたに体当たりかましたときは、俺だけでしたっけ」
「あれァ、完全におめぇが悪かったからな」
「だって、あんな吹っ飛ぶたァ思ってなかったんですよ。すこしつんのめるだけかと思ってたら、板襖まで吹っ飛ぶし」
「どっちのガタイがでけぇと思ってやがるんだ! 身構えてなきゃあ、それァ飛ぶわ!」
「え〜? それを堪えるってェのが、副長の役目でしょう?」
「何がだ! 副長ァ関係ねぇだろうが!」
「でも、あんたと取っ組み合いの喧嘩した時ァ、あんたも怒られてましたよね」
「……あんときァ、背中打って、真剣に起きられなかったからな。枕元で延々説教されて、逃げるわけにもいかねぇし――」
「俺も、懇々と説教されましたぜ。何しろ、あんた真剣に落ちてたし、医者よぶわ、緘口令しくわで、大騒ぎでしたからねェ。源さんの説教も、そりゃあ長かったですぜ」
「……やっぱり、源さんの説教なら、真面目に聞きやがるのかよ」
「そりゃあ、源さんですから。あんただって、そうじゃねぇですかい」
「まぁな――何て云うかこう、源さんの説教ってな、聞かなきゃならねぇ気にさせられるんだよな。まぁ、近藤さんに説教できる、唯一の人だったからなァ」
新撰組が何とかまとまってたなァ、源さんあってのことですからねェ。本当に、あの人こそ新撰組の真の要でさァ」
「……それァ暗に、俺じゃあ不足だと云ってやがるな?」
「ははは、そんなわけねぇじゃねぇですかい――でも、源さんに、“大概、勝手に背負いこむクセぁ治しやがれ”って云われてたでしょう、あんた」
「やかましい!」
「ははははは、いや、すみません」
「その嘘くせェ笑いは止しやがれ!」
「ははははは――源さ〜ん!(脱兎)」
「総司! ――畜生、後で覚えてやがれよ……」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。


七條甘春堂の炙りもちは、有名な今宮神社のところのとは違うんですけども、お店的には慶応元年くらいからの営業だし、七条は紫野よりは近いしで、炙りもち食べるなら、ここのかなーと。いや、七条くらいじゃないと、見回りサボって買いにいけないから(笑)。
ちなみに、本当に沖田番に買い与えたのですが――いえ、ついでがあって、伊勢丹の京都展に行ったので。
今と昔じゃ砂糖の精製からして違うので、味はかなり違うんじゃないかと思うのですが、基本は同じだからなぁ……


源さんブーム継続中なので、こんな話になりました。
話中のエピソードは、すべて電波系。つーか、実はこのサイトの話そのものが、ほとんど電波情報で出来ている……鉄ちゃんの話が、まぁ考証してるかなーと云う程度なので、みなさんいろいろ信じないで下さいね。
しかし、電波情報だった相撲取りとの乱闘後の後処理、ホントにあんな感じだったのね……詫びは、向こうかたから入っていたが正しい(と、電波情報で追加が)そうですが、本当にやったんだ、そうか……


本当は、源さん絡みで、まだ他にもネタがあったんですが、まぁそれはまた。


次は、多分また鉄ちゃんの話。鬼関連で、もの淋しい電波情報をもらったので……