小噺・山南敬助の儀

「そう云や、土方さん」
「何でェ」
「近頃の小説なんぞ読んでると、随分山南さんが物静かなひとだったみてェに書いてあるじゃねぇですかい」
「……(だから、どこでどうやって読んでんだよ)……あァ、まァなァ」
「あれってェな、どっから引っ張ってきた話なんでしょうかね。山南さん、そんな物静かなひとでしたっけ?」
「……おめぇの“小柄でやさしい、翳のある美青年”ってェのと同じじゃあねェのか」
「あァ、あれも不思議なもんですけどねェ。あと、斎藤さんと俺が、同い年になってたりとか。俺の方が上なんですけど、変ですよねェ」
「そりゃ、おめぇの言動がガキくせェってェことだろ」
「あんたに云われたかァねぇですよ、ねェ、土方さん(にっこり)」
「…………源さーん、総司の野郎が……」
「あー、はいはい、いま源さんいませんから、ね。――で、山南さんのことなんですけど」
「……何だよ」
「いやだから、何であんなやさしげなひとんなっちまってるかなーと。あの人、山岡さんも辟易するくらいの頑固一徹でしたのに、ねェ」
「あァ、“おめぇんとこの連中は乱暴すぎる”ってぇ云われて、切れたってェアレか。それを云うんなら、大坂で、力士と揉めたあん時だ。芹鴨は仕方ねぇとしても、おめぇや島田あたりを止めるべき山南さんが、自分も抜き身振りかざしての大立ち回りじゃあ、下の連中に示しがつかねぇってんだ」
「そう云やあんた、あん時烈火のごとく怒ってましたよねぇ」
「あったり前だ! いくらガタイの良い力士相手、しかも大人数だったからってぇ、抜き身振り回して、相手を五人も殺ってどうすんだ! 芹鴨が歯止めがきかねぇ男だからって、山南さんを重石にしたってぇのに……てめぇから斬りかかっていくなんざ、言語道断だぜ」
「いやでも、あっちから突っかかってきたんですぜ? それに、俺だって、八角棒でデコをごちんとやられたんでさァ。それで黙ってるってな、男が廃りますぜ」
「それくらいで廃れる男なんざ、いらねぇよ! ったく、芹鴨に乗せられて、くだらねぇ喧嘩買いやがって……あれで、ますます壬生狼の悪名が高くなったんじゃねぇか」
「だからあん時ァ、ちゃんと始末書書いたじゃねぇですかい」
「あたり前だ! 大体、あの後ァ、それだけじゃ済まなかったんだぞ、憶えてるか? こっちから詫び入れて、連中を京に呼んで、相撲の興行までやったんだからな! 費用もこっち持ちィの、連中の接待もやりィの、挙句に京での護衛も俺たちがやるときた。しかもそれが、全部芹鴨やらおめぇらのせいと来てやがる。――あんなこたァ、俺ァ二度と御免だぜ」
「――そう云や、ふと思い出しましたがね、山南さんと云やァ、昔、試衛館ん時に、酒盛りやったじゃあねぇですか」
「(こいつ、話逸らしにかかりやがったな)……あァ、まぁ結構やったなァ」
「そうでしたよねぇ。で、俺が十四のあたりだったか、山南さん、女の格好して、酌してまわってたことありましたよねぇ」
「…………そうだっけな」
「そうでしたよ、何かのあそびで負けて、その罰かなんかで。――確かあん時、あんたも女の格好してましたよね?」
「………………そうだったか」
「山南さん、姉さん被りで“お敬です”って、白粉塗ったくって――しなの作りかたァ、堂に入ってて可笑しかったですけどねぇ」
「………………」
「あんたもそうでしたよねぇ、“歳子姐さん”?」
「……その話はするんじゃねぇ」
「何でです? あんただって、結構乗ってやってたじゃあねぇですかい。――それにしても、あん時、きちんと化粧すりゃあ良かったんですよ。あんた女顔だから、結構いけたと思うんですがね。――何ですよ?」
「……おめぇ、あん時……」
「何です?」
「……いや、いい」
「? ――そう云や、あん時、翌朝起きたら、何でか俺、女物のべべ羽織って寝てたんですけど。あれ、あんたの着てたのだったと思うんですけど、俺、何やってました?」
「…………」
「流石に飲み過ぎたらしくって、全然憶えちゃいなかったんですよねぇ。平ちゃんに、えらい睨まれたんですけど――山南さんは、“忘れた”ってすげぇ爽やかな笑顔だったし」
「…………」
「あんたが、“女知らねぇだろ”ってぇ揶揄うもんで、ムカついてた記憶はあるんですけどね、その後がさっぱり……で、何やってました、俺?」
「………………源さーん!!(泣きながら走り去る)」
「え、え、ちょっと、土方さーん!? ――何やったんだよ、俺……」


† † † † †


阿呆話at地獄の三丁目。源さんどこよ?


山南さんの話と云いつつ、試衛館時代の馬鹿ネタふってしまうのは、そういう電波情報をキャッチしたからです。ネタ元からの苦情は聞かん! こんなのだったら面白いって思っただけだから!
総司は、単に真っ裸に剥いただけ。単に、鬼の暗い過去(笑)に抵触したんじゃないかなー。ちなみに、総司はこの時、現行年齢で12〜13歳ですので、今なら未成年で、酒呑んじゃいかん! 女も買ってはいけません――江戸時代って、そういうとこ結構野放しだよなー。でも、11、って云うことは、現行9〜10歳から奉公に出るわけだから、そうすると、12〜13なんて、結構中堅になってるんだよね……
が、考えてみりゃ、江戸じゃなくても、13歳くらいって“やりたい盛り”の年頃だよなぁ……いやいや(汗)。


とりあえず、鬼の“源さーん!”は、の×太の“ド×えもーん!”と同じで(笑)。
源さん、最年長なので、総司でも近藤さんでも叱ってくれますよ。その後で、“総司に説教くらい、てめぇでやれ”って怒られそうですが(笑)。


さてさて、次は真面目に、鉄ちゃんの話が書けるかな……