小噺・勤皇志士連中

「土方さん」
「何だ」
「そう云や思い出したんですけど」
「あァ」
「ほら、あんたが気に入って通ってた、四条河原あたりの蕎麦屋、あったでしょう」
「どれだよ」
「河道屋とか云うとこですよ」
「あァ、ありゃ、麩屋町んとこじゃねぇか。しかも三条だ。……あそこが、どうした」
「いえね、あそこで結構いろんなひとに出くわしたなぁって、思い出しましてね。たとえば、高杉さんとか」
「高杉? 総司、おめぇ、俺に報告しなかったじゃねぇか」
「しましたよ? ほら、“女たらしてばっかいねぇで、仕事しろ、仕事”ってぇの」
「……(あれァ、高杉からだったのかよ)……誰からってなァ、聞いてねぇな」
「あれ、そうでしたっけ? まぁ、あのときは、俺も高杉さんも、非番て云うか、平服でしたからねぇ」
「……一言くらい、俺に報告があってしかるべきじゃねぇのか」
「だから、今してるじゃねぇですかい」
「……今さらかよ……」
「いいじゃねぇですかい。大体、土方さんは、そんなことが一度もなかったって、天に誓って云えるんで?」
「……(目を逸らす) まぁ、京は狭ぇからな」
「まぁ、そうでさぁね。――あと、そうそう、桂さんには、よく逃げられたなァ」
「桂さん? そう云や、三回逃げられたってぇ報告してきたな」
「いやァ、それが」
「何だ」
「実は、他にもあって」
「……本当ァ、何回だ」
「六回、いや、七回ですかねぇ」
「何だ、それァ」
「いやァ、六回ってぇのは確実なんですけど」
「残りの一回は」
「ううーん……さっき、“いんたーねっと”とやらを見てましたらね」
「……(どうやって見たんだ)……あァ」
「どうも桂さん、池田屋のあん時に、あの場所にいたらしいんでさァ」
「桂さんがか」
「えぇ。で、つらつら思い返してみると、あそこに踏みこんだ時、確かに何人かは取り逃がしてたんですが」
「そうだってな」
「で、そのうちの一人がね、そう云やぁ桂さんみたいな奴だったなぁって云う」
「……聞いてねぇぞ」
「いや、だから、今んなって、そうかなぁってなもんですからね。でも、“身体つきが大きくて、隊士三人ばかしを吹っ飛ばして、おそろしい勢いで逃げてった”って聞きましたから、そん時も、桂さんみたいな奴だとは思ったんですがね。よもや、本当に桂さんだったとは、思っても見ませんでしたぜ」
「……で、俺に報告のなかった、あとの三回は」
「……いやァ、それは」
「云ってみろ」
「一回は、非番で、普通に一緒に蕎麦食ったとき」
「……河道屋か」
「別の店でさァ。――あと、見回りふけって、どこぞの寺で、玩具買ってたとき」
「……」
「偶然、桂さんも、そこで玩具買ってたらしくって……お互い、おんなじようなもん握りしめて、必死で走りましたねぇ。追いつけやしませんでしたけど」
「……で、最後は」
「やっぱり見回りふけって、蕎麦屋に入ったとき。――あん時ァ、お互い必死で蕎麦啜りこんで、金置くと同時に走ったんですがね」
「……」
「流石は“逃げの桂”さんだ、ちょっとの差で、見失っちまいましたよ。桂さん、蕎麦食いながら、腰浮かしてて――あれァ可笑しかったなァ」
「そう云う時ァ、食わねぇで追っかけるもんだろうが!」
「えぇぇ、そんな、腹が減っちゃあ、戦になりませんぜ」
「……おめぇに何か期待した俺が、馬鹿だったぜ……」


† † † † †


短い阿呆話at地獄の二丁目(笑)。


話の中の蕎麦屋は、個人的に気に入ってるお店。晦庵河道屋というところで、江戸時代からあるので、まぁこんなことがあったっていいんじゃないかなぁと。お店の雰囲気がいいので、京都に行くと、行くことが多いかな。鍋が、割合安くて美味しいです。
つーか、よく食い物の話をさせてるなぁ。鍵屋の葛きりとか。


あ、そう云えば、“さぼる”って、明治以降の言葉だなぁと思ったので、ちょっと修正。“とんずらする”の方がいいと云う意見もありました(身内から)が、まぁ、“ふける”もありでしょ、と。
あと、総司番(笑)から、こだわりの修正要求があったので(笑)、そこも。細かいとこなんですけどねぇ(笑)。


しかし、京都は割によく行ったのですが、そう云えば、新撰組関係の土地には行ったことがない……安倍晴明関係が主だったからなぁ。何たって、二条城も最近になって行ったくらいだし。
つーか、新撰組の史跡は、本当に行ったことがないや。
そのうち、高幡不動とかにでも行ってみるかな……