小噺・池田屋事件

「土方さん」
「あぁン?」
「俺、池田屋のあん時、昏倒したじゃないですか」
「あァ、してたな」
「あれ、最近の小説とかじゃ、労咳の発作で、喀血して倒れたとか云われてるみたいなんですけど」
「……(最近の小説って、どこでどう読んだんだ)……あァ、そうらしいな」
「あれねぇ、今だから云えることなんですけども」
「何だ」
「一生の不覚だったんですよねぇ」
「何がだ」
池田屋って、あそこ狭かったじゃないですか」
「あァ」
「でもって、薄暗かったじゃないですか」
「あァ」
「そんなところでおっぱじめちまったもんで、どこに何があるんだか、よく見えてなかったんですよねぇ。ほら、あの時は、連中、襖とか取っ払って、広間にしてたでしょう」
「そうだな」
「で俺、斬りかかってきた奴避けるのに、うっかりそこにあるのに気がつかねぇで、思いっきり柱にぶつかっちまったんでさァ」
「……おめぇのあの勢いでか」
「あの勢いでさァ」
「よく、そのまま頭割って死ななかったな?」
「まったくでさァ。一瞬意識が飛んじまって、下手したら斬られるとこでしたぜ。おまけに、床が血の海で、これまた滑って――実際、すてんといっちまいましたしね。蒸すし、こけるし、散々でしたよ」
「はァん……それで、あの時、永倉に手ェ引かれてやがったのかよ」
「あァ、永倉さんだったのかあれ……誰だかわかんなかったけど、親切な人だなァ、あの乱戦ン中で、壁際に連れてってくれましたしねぇ」
「だがおめぇ、それでもかなり斬ったって聞いたぞ? 吉田稔麿とか」
「そりゃあ、ねぇ、まがりなりにも一番隊組長ですからねぇ」
「……そんな阿呆に斬られたとあっちゃあ、吉田も浮かばれねぇなァ」
「何云ってるんです、土方さん、どんな状態でも勝つってぇのが、俺の天才たる所以じゃねぇですかい(爽笑)」
「……てめェで“天才”云いやがるかよ……」
「あはははは」


† † † † †


短い阿呆話in天国? 地獄? まぁそんなとこ。
池田屋の昏倒の件は、やっぱり労咳の喀血ではないらしいので、こんなのもありかなー、とか。本当にこうだったら、間抜けすぎます、沖田総司。何だか、吉田稔麿が哀れになってきた……(涙)


まぁ、こんなカンジで、ちまちましたのもちょこっとつっこんでいきますよ。