小噺・色の道

「土方さん、ふと思い出したんですけど」
「何でェ」
「あんた昔、伊東先生と色男自慢やってましたよねぇ? 何か、俺に“どっちが色男だ”って訊かれた憶えがあるんですけど」
「……あァ、まァなァ」
「あれって結局、どっちが勝ったんで?」
「……おめぇが妙なこと抜かしやがるんで、お流れになっちまったぜ」
「妙なことってなァ何ですよ。俺ァ素直に、手前が色男だと思うひとを上げただけですぜ」
「原田はともかく、何で山南さんと平助と斉藤だよ」
「いい男じゃあねぇですかい!(力説) 平ちゃんは可愛いし、山南さんは味があるし」
「……おめぇの判断は、だから当てにならねェってんだ」
「あんたァ、俺ん中じゃあ四番目くらいですかねェ」
「四番目かよ!」
「伊東先生は好かねぇんで、あんたを入れて上げまさァ。ああ、同率で近藤先生もってェことで」
「――あり得ねェ……」
「だってあんた、色男自慢って云う割に、やってるこたァヘタレじゃねぇですかい。大体何ですよ、奉公先で女中につまみ食いされたってェあれは」
「ば……っ!(赤面) 違ェよ、あれァ、女の方から誘いをかけてきたってェだけで、つまみ食いされたわけじゃあ……」
「されたんでしょ」
「…………(泣)」
「それで腹にややがってェ、いいようにされ過ぎですぜ」
「……だから、てめェでケリをつけたじゃねぇか」
衆道好みの番頭脅してですかい」
「…………あれァ、あの番頭が襲い掛かってきやがるから……」
「それにしたって、ねェ。――まァ、どうでもいいんですけどね、俺は」
「……大体、誰から聞いたんだ、その話」
「もちろん、近藤さんに決まってまさァ。あんたの恥しい話やら、情けない話やら、近藤先生はたんとご存知ですからねェ」
「……」
「ま、俺は色恋沙汰は御免ですから、あんたみたいなことにゃなりませんよ」
「――おめェまだ、あの女のことを引きずってやがるのか」
「誰のことですよ? 俺ァ、女ってェ生きものァ、もうこりごりなんでさァ。勝手に喉は突くわ、寝てる間に長州者を引き入れられるわでねェ。好いた女たァ結ばれねぇし、まったく散々でしたぜ」
「――例の医者の娘のことが、まだ忘れられねぇのか」
「まぁねぇ? どなたさんかが、素早く手ェ打ったお蔭で、一縷の望みも断たれましたからねぇ。折角好いてもらってたってェのに、ねェ」
「仕方ねェだろう、おめェが“嫁貰って、多摩に帰る”なんぞと云い出しやがるから――あん時ァ、おめェに抜けられちゃあ、組ががたがたんなるかも知れねェと思ったんだ。だからな……」
「そりゃあ、あんたはそうでしょうともさァ。まァ、近藤さんにも反対されてましたしねェ? 山南さんだって、“諦めろ”って云いましたよ。でも、ねェ、それにしたって、向こうを嫁に出しちまうってェな、あんまりなやり口じゃねェですかい?」
「あれは、近藤さんのつてで……」
「確かにそう聞きましたけどね、近藤さんにしちゃァ、手ェ打つのが素早いんですよ。これァ、近藤さんの後ろに誰かいやがるなってェ、あん時から思ってはいたんですけどねェ」
「今さら……江戸の恨みを東京で果たすってェのかよ」
「いやぁ? 単に、恨み言のひとつも云いたい気分なんで」
「云っとくがな、そもそも破談にしてェと思ってたのは、近藤さんなんだぜ? それに、近藤さんに入れ知恵したなァ、ありゃ山南さんだ」
「はン、馬鹿云っちゃあいけませんぜ。近藤さんや山南さんが、そんなことするわけがねぇでしょう」
「本当だって(必死)。大体、かっちゃんは狡いんだぜ、何とか破談に持ち込みたいくせに、そう云う時ァだんまりでさ。俺か山南さんに、何とか口火を切らせようってんだ」
「近藤先生が、そんなことするわけァねェでしょう」
「そうだって! 大体、山南さんだって、あん時ァ、爽やかな笑顔で“娘の方を片付けてしまえばいいじゃないですか”って……」
「そんな外道なこと、あんた以外の誰が云い出すってェんです。ここにいねぇと思って、他人に押し付けるような真似ァ、卑怯ですぜ」
「違う、本当にそうなんだよ!」
「男らしくありませんぜ、土方さん」
「違うってェの! ……畜生、割にあわねェ……」


† † † † †


阿呆話at地獄の四丁目。
ちょっと改変。


鬼、貧乏籤。例の総司の恋の裏話と云うか。
何かもう、企むんなら鬼、と云う構図が出来てるのがやだなァ……
あれは絶対(以下略)だと思うんだよ、つーか絶対そうだって! と、何故今さら私がここで力説せねばならんのか。
あ、“江戸の恨みを東京で”は、間違いではなくわざとですから。“江戸の仇を長崎で”だと、距離&時間経過だけど、“東京”だと、何か長い時間の経過、ってカンジにならないかなーと思って。
……ってことは、この会話は、前に書いた転生ネタの鬼&総司の会話なのか? (何にも考えずに書いてますが)
まぁ、何でもいいや。


しかし、どこが“色の道”なんだろう、この話……